紫紺蝶はひらひらと公爵の上を飛び回り、紫色に光る鱗粉を振り撒いた。その鱗粉は、フィリーネの指先から溢れる光の粒とよく似ている。
どのくらい経っただろう。必死に祈りを捧げていると、公爵の手がぴくりと反応した。
フィリーネが公爵の顔を覗き込むと、睫毛が震えている。やがて、ゆっくりと瞼が開き、瞳に光が宿った。
「君は……それに私は……」
「お加減はいかがですか? 長い間、悪夢に魘されていたんですよ」
フィリーネはにこりと笑みを浮かべて公爵の手を離す。
「ランドレイス公爵様は夢塞病を患っており、目覚められない状況にありました。ですがようやく、現実に戻って来られました」
説明すると、公爵がゆっくりと上体を起こす。
「確かに私はずっと夢か現実か分からない恐ろしい体験をしていた。……ああ、あれはただの夢だったのか。良かった。良かった、夢で……」
公爵は安堵の息を漏らすと、手で顔を撫でる。
「ところで、お嬢さんは精霊師のようだが、どこの精霊師一族の者だね? 君の隣にいる精霊は初めて見る属性だ。光の精霊ではないようだね」
公爵はフィリーネの周りを飛んでいる紫紺蝶に目を向ける。
フィリーネは質問を受けてどう答えるべきか逡巡した。



