「誰もいませんね。……でも、どうして灯りがついているんでしょう?」
この部屋は誰かの私室のようだが、アーネストの部屋なのだろうか。
それなら一刻も早くこの部屋から出ていかなければ。万が一、アーネストと鉢合わせしてしまったら、不法侵入したとして捕まってしまう。ミリーネだって止めに行けない。
フィリーネは足早に出口へ向かっていると、天蓋つきのベッドから呻く声が聞こえた。
「ふううっ……」
天蓋つきのベッドに目を凝らして見ると、そこには初老の男性が眠っていた。
絶え間なく苦しむ声が聞こえてくるので、堪らずフィリーネは駆け寄る。
彼は眠っているだけなのに、とても威厳があった。さらにその顔立ちは、どことなくアーネストとよく似ている。
「この方はもしかして、ランドレイス公爵様でしょうか?」
公爵が床に伏せっているというのは有名な話なので間違いないだろう。
明らかに顔色が悪く、額には珠のような汗が滲んでいる。
時折、やめてくれといううわ言も聞こえてきた。悪夢に魘されているようだ。
フィリーネは公爵を起こそうと声をかける。
「公爵様、起きてください。あなたが見ているのはただの悪夢です」
呼びかけて身体を揺すってみるものの、ランドレイス公爵は呻くだけで起きる気配はまったくなかった。
「これって、もしかしてシドリウス様と同じ夢塞病でしょうか?」
ランドレイス公爵の症状は夢塞病とそっくりだ。
「夢塞病なら私が治せるかもしれません」
治す方法はただ一つ。公爵に添い寝をすることである。
しかし、そこで問題が発生した。



