迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~



 次の音楽が始まる前にフィリーネはシドリウスに連れられてバルコニーへと移動する。
 バルコニーには誰もおらず、大広間の熱気とは打って変わって涼しい風が吹いていた。

「シドリウス様、私のダンスはどうでしたか?」
「上出来だ。これなら本番でも緊張せずに踊れるな」
 褒めてくれるシドリウスに、フィリーネは面映ゆい表情を浮かべる。

「踊って喉が渇いただろう。飲み物を取ってくるから、ここで待っていてくれ。一休みしたら公爵を見舞い、屋敷に帰ろう。ヒュドーたちには先に帰ると事前に伝えてある」
「分かりました」

 こっくりと頷いたフィリーネは、シドリウスが再び大広間へ入っていくのを見送った。
 大広間の中央では男女がダンスを踊り、踊っていない者たちはグラスを傾けながら世間話に花を咲かせている。

「舞踏会の賑わいは町のお祭りとまた雰囲気が違いますね。素敵な体験ができました」
 改めて感慨に浸っていると、背後で慣れ親しんだ気配を感じた。
 後ろを振り返ると、黒色に発光する紫紺蝶が現れていた。

 手を前に出すと、紫紺蝶が人差し指に留まる。
 フィリーネは自分の気持ちを紫紺蝶へ吐露した。

「今夜は貴重な体験ができて、良い思い出になりました。もう思い残すこともありません。あとは成人して竜王陛下に挨拶をしたら、私はシドリウス様に召し上がっていただきます」