放課後、教室は少しずつ静かになっていった。
部活へ向かう人、友達と帰る人、まだ話し込んでいる人。
私は席に座ったまま、鞄に手をかけたまま動けずにいた。
今日一日、まともに湊と話していない。
視線も、ほとんど合わせていない。
――このままでいいのかな。
そう思ったとき、スマホが震えた。
画面を見る。
湊:『少し、話せる? 昇降口の外で待ってる』
心臓が跳ねる。
しばらく画面を見つめてから、立ち上がった。
誰にも気づかれないように教室を出る。
廊下は夕方の光に染まっている。
足音だけがやけに大きく響いた。
昇降口を出ると、春の風が少し冷たかった。
校舎の壁にもたれて、湊が立っていた。
私に気づくと、真っ直ぐこちらを見る。
「……ごめん、急に」
「ううん」
少し距離を空けて立つ。
何から話せばいいか分からない。
先に口を開いたのは湊だった。
「昨日のこと」
胸がぎゅっとなる。
「……うん」
「困らせたよな」
「困ってる」
正直に言ってしまった。
湊は苦笑する。
「だよな」
少し沈黙が落ちる。
遠くで部活の掛け声が聞こえる。
「でも」
湊が続ける。
「言わないまま、またいなくなるのは嫌だった」
その言葉に顔を上げる。
「またって……?」
湊は視線を落とした。
「俺、ここ長くいないかもしれない」
頭が真っ白になる。
「え?」
「親の仕事の都合。まだ決まってないけど、夏前には戻る可能性ある」
――また、いなくなる。
胸の奥が一気に冷える。
「……なんで」
小さな声が出た。
「どうして、また」
言葉が続かない。
湊は静かに言った。
「だから、逃げたくなかった」
風が吹く。
桜の花びらが足元に落ちる。
「結月に会って、何も言わずに終わるのだけは嫌だった」
苦しくなる。
「俺は」
少しだけ息を吸う。
「今でも、好きだよ」
時間が止まる。
過去じゃない。
現在形。
言葉が出ない。
足が動かない。
「……ずるい」
かすれた声が漏れる。
「またいなくなるかもしれないのに」
涙がにじむ。
「残される方の気持ち、分かってるの?」
湊は目を伏せた。
「分かってる」
静かな声だった。
「それでも、言わない方がもっと後悔すると思った」
胸が痛い。
嬉しいのに、怖い。
また同じ思いをするかもしれない。
今度こそ、本当に終わるかもしれない。
「結月は?」
顔を上げる。
まっすぐ見られる。
「俺のこと、どう思ってる?」
答えなければいけない。
でも――
「……分かんない」
それしか言えなかった。
本当は分かっている気もする。
けれど認めた瞬間、何かが壊れる気がした。
そのとき、後ろから足音がした。
「……やっぱりここか」
振り向く。
颯真が立っていた。
私と湊を見て、少しだけ目を細める。
そして、静かに言った。
「話、終わった?」
夕焼けの中、三人が同じ場所に立つ。
逃げられない時間が、
ついに目の前まで来ていた。
部活へ向かう人、友達と帰る人、まだ話し込んでいる人。
私は席に座ったまま、鞄に手をかけたまま動けずにいた。
今日一日、まともに湊と話していない。
視線も、ほとんど合わせていない。
――このままでいいのかな。
そう思ったとき、スマホが震えた。
画面を見る。
湊:『少し、話せる? 昇降口の外で待ってる』
心臓が跳ねる。
しばらく画面を見つめてから、立ち上がった。
誰にも気づかれないように教室を出る。
廊下は夕方の光に染まっている。
足音だけがやけに大きく響いた。
昇降口を出ると、春の風が少し冷たかった。
校舎の壁にもたれて、湊が立っていた。
私に気づくと、真っ直ぐこちらを見る。
「……ごめん、急に」
「ううん」
少し距離を空けて立つ。
何から話せばいいか分からない。
先に口を開いたのは湊だった。
「昨日のこと」
胸がぎゅっとなる。
「……うん」
「困らせたよな」
「困ってる」
正直に言ってしまった。
湊は苦笑する。
「だよな」
少し沈黙が落ちる。
遠くで部活の掛け声が聞こえる。
「でも」
湊が続ける。
「言わないまま、またいなくなるのは嫌だった」
その言葉に顔を上げる。
「またって……?」
湊は視線を落とした。
「俺、ここ長くいないかもしれない」
頭が真っ白になる。
「え?」
「親の仕事の都合。まだ決まってないけど、夏前には戻る可能性ある」
――また、いなくなる。
胸の奥が一気に冷える。
「……なんで」
小さな声が出た。
「どうして、また」
言葉が続かない。
湊は静かに言った。
「だから、逃げたくなかった」
風が吹く。
桜の花びらが足元に落ちる。
「結月に会って、何も言わずに終わるのだけは嫌だった」
苦しくなる。
「俺は」
少しだけ息を吸う。
「今でも、好きだよ」
時間が止まる。
過去じゃない。
現在形。
言葉が出ない。
足が動かない。
「……ずるい」
かすれた声が漏れる。
「またいなくなるかもしれないのに」
涙がにじむ。
「残される方の気持ち、分かってるの?」
湊は目を伏せた。
「分かってる」
静かな声だった。
「それでも、言わない方がもっと後悔すると思った」
胸が痛い。
嬉しいのに、怖い。
また同じ思いをするかもしれない。
今度こそ、本当に終わるかもしれない。
「結月は?」
顔を上げる。
まっすぐ見られる。
「俺のこと、どう思ってる?」
答えなければいけない。
でも――
「……分かんない」
それしか言えなかった。
本当は分かっている気もする。
けれど認めた瞬間、何かが壊れる気がした。
そのとき、後ろから足音がした。
「……やっぱりここか」
振り向く。
颯真が立っていた。
私と湊を見て、少しだけ目を細める。
そして、静かに言った。
「話、終わった?」
夕焼けの中、三人が同じ場所に立つ。
逃げられない時間が、
ついに目の前まで来ていた。



