月が青く染まる夜に

こちらにはまだ気づいていない。
音楽に合わせるみたいに、少しだけリズムのある歩き方だった。
会社では見たことのない、プライベートな迅和くん。


一瞬だけ思う。知らない人みたいだ。
会社の蛍光灯の下で見る彼とは、まるで違う。


階段を降りきったのを見届けたところで、私は迷った。
声をかける?私から?
第一声、どうしよう?

彼がふと顔を上げた。
視線が、合う。

風がまた一段と強く吹いたせいで、珍しく迅和くんのおでこまで見えた。


逃げたら負けな気がして、何も考えずに駆け寄った。

「……風、とんでもなく強いんだけど」

思ったより普通の声が出た。

言ってから、しまったと思う。
あとから後悔する、謎の可愛げのないセリフ。


迅和くんは一瞬きょとんとして、それから片耳のイヤホンを外した。

「ですね」

それだけ言って、少し笑う。

近づいてくるとよく見える。
ボディバッグが身体の動きに合わせて揺れて、ファスナー横の信号機が小さく跳ねた。

会社で見慣れたものとは違う、少しだけポップなデザイン。