月が青く染まる夜に


社員旅行から戻ってしばらく経った。


何も変わらないはずの総務部インフラ整備課が、少しだけ狭く感じる。

自分の席に座って、非常用発電機の燃料契約書を見直していると、足音が止まる。

「紗菜さん」

名前を呼ばれた。
顔を上げなくても分かる。

「はい」

横に立つ気配。少し距離がある。
真正面から見るのは、まだどこか気恥しいので目だけを向けた。


迅和くんだ。

はじめはただの他部署の人。
でもそのうち、ちょっと目で追う人になり、一緒に働く仲間になり、好きになって、両思いになれた。

そんな現実に、いまだに気持ちが追いつかない。
ずっとふわふわしている。
恋愛って、こんな感じだったっけ。


私が振り向かないのが不思議なのか、さっきより距離を詰めて、わざわざ顔を覗き込んできた。

「大丈夫?具合悪いとか?」

────この人は、手加減しない。

この無意識にやっているであろう“心配”も、私がやめてと言ってすぐにやめてくれた敬語も、それが会社の中で他の人たちにどう見られているかも、なにも考えていない。

反対側のデスクから、真奈美さんの視線を感じる。

「いつも通りだよー。平気平気」