桜の咲くころ、思い出して

伊田くんがそっと私の手を握った。

さっきはあんなに痛かったのに今度は優しかった。

ゆっくりと目を合わせたら、ドキドキと心臓の音が聞こえ始める。

「川瀬ちゃん…俺は川瀬ちゃんが生きててよかったって思ってるし、川瀬ちゃんが学校に来てくれてよかったって思ってる」

「伊田くん…」

本当は何度も迷った。

学校に行くって決めた日から、本当は迷うことの方が多かった。

「そうじゃなかったら川瀬ちゃんに会えなかったよね」

だけど今なら思うよ、私が選んだ道は間違ってなかったよ。


そう、伝えたいよ。


だってね、伊田くんに出会えたから。

伊田くんのことを知ったから。


ねぇ、ヨシノ。

私まだ、ヨシノに伝えたいことがあるの。


「俺も奈絵って呼ぼうかな」

止まらなくてどうしようと思ってた涙がびっくりして引っ込んだ。伊田くんが口をとがらせてたから。

「まじーだけ名前で呼んでんのずるくない?」

「ずるい!?」

別にずるくないのでは!?
名前で呼ぶのにずるいとかずるくないとか…

えっ!?

やっぱり伊田くんはわからない、私の知らない感情をいっぱい教えてくれるから。

にこって笑う伊田くんはいつでも新しいことを教えてくれる。


でも心臓ももたない…!