桜の咲くころ、思い出して

「ちょうどそんな研究をしてたんだって、だから引き受けてくれる体を探してたとか…で、ちょうど運ばれて来た私にその実験がされることになって」

「ちょっと待って!ちょっと待って…っ、なんでそんな普通に話してるの!?川瀬ちゃんはだって…っ」

気づいたら丸椅子に座っていた伊田くんは立ち上がって、前のめりで私のことを見ていた。
ベッドの上に座る私をむずかしそうな顔で見てる。

「あのね伊田くん勘違いしないで!これは私も納得してるし嫌だとか思ってないの…よかったって思ってるから、うれしい気持ちの方が大きいんだよ」

うれしかったの、真っ白だった世界が少しずつ色づいて。

「じゃっ、じゃあその人工知能っていうのが…」

「うん…、“ヨシノ”」

人工知能の名前、私の脳の中にある。

「桜がすごくキレイだったから私が“ヨシノ”って付けたの」

出会えてうれしかった。

一緒に居られて楽しかった。

友達ができたみたいだった。

「ヨシノがね、教えてくれるの。勉強とかマナーとか流行りの漫画とか…本当に何でも教えてくれて」

だから勉強は中学に行けるぐらいできるようになった。

マナーを教えてくれたから生活ができるようになった。

流行りのものを教えてくれたから好きなものができた。

「そのおかげでママとパパのことも思い出せたの」

毎日脳を動かすことで思い出せることができたんだと思う。
まだすべては思い出せてないけど。