桜の咲くころ、思い出して

「前に、事故にあったせいで記憶がないって…話したよね?」

「あ、うん…」

「あれね、本当に何もかも忘れちゃってママのこともパパのことも友達のことも自分のこともわからなくて…」

私に残されたのはただの真っ白な世界だった。

でもそれでもよかった方なの、よかったんだって。

「それぐらい脳への傷が大きかったの」

もう死んでたかもしれない、それぐらいひどかった。

だからこれしか救える方法がなかった。

「え、待って…それって…」


私の命を救うため、これしか方法がなかったー…


「脳を守るために埋め込まれたの、人工知能が」


その瞬間出会ったの、ヨシノに。

私の中にヨシノが生まれたの。


「……。」

「脳の傷を人工知能が守ってくれてる、ってことね」

「…あっ、ごめん!ちょっと理解が追いつかなくてっ、えっとーあのー…」

「ううん、急にこんなこと言われても困るよねごめんね」

「いやっ!謝られることじゃっ…ないけど、ちょっと未知数過ぎてそんなこと出来んのかなーとか…やべっ、ちょっとあの…っ」

こんな話、誰にもしたことなかった。

できるわけなかったの、ヨシノのことなんて。

「え…じゃあ、今…川瀬ちゃんの頭の中?に人工知能があって、えっと…え、人工知能がいるって、だから…っ」

何度も目をパチパチさせてしどろもどろした伊田くんとは逆に私は落ち着いていた。
あれだけ泣いていたのに今はすごく落ち着いてる。

「人工知能が脳の一部ってこと?あ、いや、違うか…脳を守ってるって…っ」

落ち着いて前が見られてる。

「それでいいと思うよ」

「え…」

「って、その辺のことは私もよくわからないんだよね」

「……。」

脳がちょっと壊れちゃったから、その壊れちゃったからところをAIが守ってくれてる。

これ以上は上手く説明ができなくて…

でもちゃんと動いてるから、どうにかなってるんだろうなぁって思ってる。

私は今、生きてるから。

痛みもないし、元気だし、だけど1つだけ困ったことがあって…

「あのね、目的はもう1つあって」

「もう1つ?」

きっと、その方が大きく意味を成している。

私を救うため考えられた、人工知能を脳に埋め込んだ本当の理由…


「みんなと同じ日常生活を送ることなの」


すべてを忘れてしまった私に、新しい頭脳を与えようって考えられたの。