桜の咲くころ、思い出して

「川瀬ちゃんいつから寝てなかったの?」

「え?」

ちょこっとだけ顔を上げた伊田くんは眉を寄せていた。

「寝不足って言ってたよね?いつから寝てなかったの?」

「え…っ、ちょっと前…かな?毎日とかじゃないし、全然っ」

本当は毎日ほとんど眠れてない。
もしかして声が聞こえるんじゃないかと思って、待ってしまうから。

「ごめんね…伊田くん戻ってよ、私はもういいから」

「嫌だね、川瀬ちゃんといる」

「っ!」

手をつかまれてぎゅっと握られた。

強く、強く、痛いくらいに。

「伊田くん手…っ、そんなにっ」

「ねぇやっぱり教えてよ」

「…っ」

グッと熱の入った瞳が見て来る。

見つめられてるんじゃない、見逃さないようにしてるだけ。
ごまかすことが許されないみたいな、強い視線に刺されたみたい。

「ちょっと眠れない日が続いただけだから…っ」

「どうして?その理由を聞きたいんだけど」

「それは…あ、暑いから!ほら、最近すごく暑くて…っ」

手は離してくれなかった。ぎゅっとつかんだまま力は入る一方で。

「伊田くん、痛い…」

「違うよね、それ今考えたよね!?」

「痛いっ」

「そんなに俺に言えないことなの?」

「…っ」

言えない、言いたくない。

誰にも言いたくない。


だってこれは私の秘密ー…


「“ヨシノ”って誰?」


ヨシノ…!?

どうして伊田くんがその名前を…?

「なんでっ」

「さっき言ってたから」

言ってた…?

「川瀬ちゃん…うなされながら言ってた、ヨシノって…」

夢を見てたから、初めて出会った日のことを。

ずっと思ってた。

ずっと考えてた。


もう一度、会える日は来ないのかなって。


「ヨシノって誰なの?そいつが原因なの!?川瀬ちゃんは俺じゃなくて…っ」

涙がどうしようもなく溢れて来る。

「…川瀬ちゃん?」

どれだけ泣いたかわからないのにまだこんなにも、あの日からずっと泣くばかりの日々なのに止まることを知らない。


ねぇヨシノどこにいるの?

ずっといるって言ったよね?

私といるって言ったよね?


なのにどうして、返事をしてくれないの?


ねぇヨシノ…


「川瀬ちゃんどうし…っ」


ヨシノがいたらそれでよかった。

ヨシノといられたらそれでよかった。


あの日からずっと、ヨシノと一緒だったから。


「ヨシノは…っ」


もう会えないなら話すよ、私の秘密。

伊田くんに教えてあげるー…


「私の頭の中に埋め込まれたAIー人工知能ーなの」