桜の咲くころ、思い出して

すぅっと息を吸った、だけどそれ以上は何も言えなくて。

どうしても言えなくて、声が出で来なかった。


やっぱり言えないよ…

言えない、ヨシノのことを話すのは怖い。


でもそれは伊田くんにどう思われるとか、そんなんじゃなくて…

もし伊田くんにヨシノのことを話したらヨシノがどこかへ行ってしまう気がして。


「川瀬ちゃん…」

気づいたら涙がポロポロとこぼれていた。


なんで泣いてるんだろう。

全然泣くところじゃなかったのに、でも涙が止まらないの。


本当恥ずかしいなぁ、私。


何をするにも人並みにできないんだもん。

こんなのただ伊田くんを困らせるだけなのに。

「……。」

窓から入って来る風が生暖かい。

大きく息を吸って両手で涙をぬぐった。

涙をふいたら笑うんだ、次に顔を上げた時にはにこって笑うの。伊田くんに大丈夫だよって伝えっ

「川瀬ちゃん…っ!」

顔を上げようと思ったのに、次の瞬間私の視界は真っ暗だった。

伊田くんに抱きしめられたから、伊田くんの胸の中にすっぽりと閉じ込められたから。

この感覚は2回目だ。

伊田くんの胸の中はあったかくて、ドキドキするのにどこか落ち着くの。

「川瀬ちゃん、来月は体育祭だよ」

ぎゅぅっとさらに抱き寄せた伊田くんの力が強くなる。

「俺運動得意なんだ、50メートル走は自信あるし。だから優勝目指しちゃおっかなって…あ、球技大会は俺らサッカーなんだってそれは俺のフィールド!女子はソフトボールらしいよ、川瀬ちゃん出来る?」

伊田くんが私から離れたと思ったら私の顔をクイッと上げた。
上を向かせるように、伊田くんと顔を合わせるように。

「えっ、私は…できない」

「じゃあ練習しよ!」

「練習!?」

「一緒に」

ねっ、って笑うの。泣いてる私に笑うの。

「たとえば川瀬ちゃんの中に思い出の箱~学校編~ってのがあったら、今は余裕があるのかもしれないけど」

私に上を向かせてくれる。

「卒業するころにはたっぷたぷに溢れさせよ!」

だからまた私の涙腺は刺激される。

「俺と楽しも?」

伊田くんを好きになってよかった。

伊田くんと出会ってよかった。


ねぇ、ヨシノ。

ヨシノが言った通りかもね、伊田くんなら大丈夫かも。


今度こそ伝えてみようと思うよ。


もしヨシノと伊田くんが話せたら、どんな感じなのかな?

きっと楽しいよねー…