桜の咲くころ、思い出して

小学校5年生の春休みだった、車がぶつかって来たの。
それも私の記憶にはなくて、どんな状況だったのかよくわからないけど。

「え…記憶がない…?」

「うん…大きな事故だったみたいでね、そのショックで全部忘れちゃったの」

何もかも、それ以前のことを何も覚えてなくて。

「前に小学校に行ってなかったって言ったでしょ?」

伊田くんから視線を変えて窓の外を見た、見てるフリで何にも見えてなかったけど。

「その前の記憶はないし、事故にあってからはずっと入院してて…もう学校にも行けなくなっちゃって」

知らない世界だったの、私にとっては見るものすべてが。

だから怖くて学校へ行く勇気が出なかった。

「このままでいいのかなって思いながら毎日を過ごしてた」

ずっと家にいていいのかなって、何もわからないままでいいのかなって…
そしたら知りたくなっちゃったの、学校ってやつを。

「だから中学から学校へ行こうって決めたんだ、私もみんなみたいな学校生活を送りたいって…」

いっぱい不安はあったよ、今だってたくさん不安はあるの。

だけど変わりたかったんだ。

変えたかったの、すべてを失ったあの日から。

「決めたの、学校へ行こうって」

伊田くんから手を離した、手がふるえちゃってたから。

きゅっと両手を握りしめた。


言えるかな?

言ってもいいかな?


あのね、伊田くん。

聞いてほしいの。


笑い方さえ忘れてしまった私に、そんな風に思わせてくれたのはー…

「…っ」