桜の咲くころ、思い出して

「あ、伊田くん…、あの…っ見て!グラウンドでサッカー部が試合してるんだけどすごい白熱してるの!つい応援しちゃって!」

なんて、笑って嘘をついた。

ヨシノは黙ったまま何も言わなくて、憎まれ口でもいいから言ってほしかった。


私、ヨシノのこと傷付けた…?

でもヨシノは…


「俺、小学校の時サッカーやってたんだ」

「え、そうなの?」

「だからサッカー部入ろうかと思ったこともあったけど、やっぱ入らなくてよかったかも」

「それは…どうして?」

開いた窓にひじを置いて頬杖をついてに私の方を見た。

「だって川瀬ちゃんと一緒に帰れないじゃん」

「…っ」

ふわっと風が入って来て猫っ毛がそよそよなびいてる。

赤くなった頬が熱くて、手で隠そうとしたらぎゅっと手を握られた。


どうしよう、どうにかなりそうだよ。

伊田くんといたら私…


「川瀬ちゃんの秘密、いつか俺に教えてくれる?」


ドキンッと胸がさわぎ出して。

伊田くんのやさしく笑った顔が、あったかい手のひらが、私を見る透き通った瞳が、伊田くんといるこの空間が…


今までの人生で1番私の胸を熱くするから。

ドキドキする心臓に、生きてるんだなぁって思っちゃったんだ。


こんなの、今まで感じたことなかったから。

だけど、下を向いちゃった。

「川瀬ちゃん…?」

言っても、いいのかな?

“奈絵が話たけりゃ話せばいいよ”

上手く言えるかな、私に。

「どうしたの?」

「…伊田くん、私ね」

小さく息を吸う、ふるえる心臓をなだめながらゆっくり顔を上げて。

「記憶がないの」

伊田くんの方を見て目を合わせる、少し驚く伊田くんと。


「事故で記憶がなくなったの」


“川瀬さんって春休みに事故にあってた子だよね”