桜の咲くころ、思い出して

そう言われてまた顔が熱くなった。

ヨシノにそんな風に言われると恥ずかしくて、照れくさくてむずむずする。


…でもうれしい、すごくうれしい。


思い出してはニヤニヤして、ドキドキして、体がふわふわするの。

これが誰かを好きになるってことなんだね。


『でもさ、オレのこと言わなくていいの?』

「え…?」

床に落としたドライヤーに手を伸ばして、今度は鏡に映らないところで立ち上がった。たぶんまだ顔は赤いままだから。

「どうかなぁ…、でも言うのは不安だし…だってそれで嫌われたりとか…っ」

『恋する乙女だな~』

「うるさい!」

やっぱ鏡の前に立たなくてよかった。

今の顔は見られたくなかった。


……。

…やっぱり怖いんだもん、ヨシノのことを誰かに話すのは。


不安なの、どう思われるかって考えたら。

きっとびっくりするどころじゃないよ、私のことうとましく思うんじゃないかって…


“今度教えてよ、川瀬ちゃんの秘密”


言えないよ、言わない方がいいことだってあるんじゃないかなって思うから。


『そんなことで嫌うやつオレは許さないけどな』

「…。」

『それで嫌うんだったらそんな奴オレがねじ伏せてやる!』

「…無茶言わないでよ」

というかそれはどうやってやる気なの?ヨシノは誰にも見えないんだからね?

今度こそドライヤーを棚にしまって扉を閉じた。


ヨシノのことはまだ決めてない、別に言わなくても…

でも言わなきゃいけない日が来るのかな?


ヨシノのことを伊田くんに。


『伊田なら大丈夫だろ』