桜の咲くころ、思い出して

伊田くんとお付き合いすることになった。


付き合うって何をするんだろう?


初めてのことにとまどって、とにかくずーっとふわふわしてる。



「付き合うって何かなぁ…?」

ドライヤーで髪の毛を乾かしながら無意識に口にしちゃうくらい。
この時間ってちょっと暇で、手は動かしてても考える時間が多いからナチュラルに独り言を言ちゃってた。

「……。」

ヨシノに聞こえてたかな?

ドライヤーの音がうるさいし聞こえてなかったかな?

こんな浮かれた独り言聞かれてるのも恥ずかしいし、脱衣所の洗面台に映る自分の姿がわかりやすくニヤけてる…

きゅっと頬に力を入れて引き締めた。

カチッとドライヤーのスイッチを切ったらコードをぐるぐると巻いて、隣の棚の扉を開けた。

「ヨシノ、今から映画見ない?」

今日は眠れそうにないからヨシノと映画でも見ようかなって…

「ヨシノ?」

扉を開けた手がピタッと止まる、今度は聞こえてるはずなのにヨシノの返事がないから。

「ヨシノ聞こえてるっ!?私の声聞こえて…っ」

つるっと手からドライヤーが落ちた、棚にしまおうと思っていたのに手から滑り落ちて。

「ヨシッ」

ードン…ッ

鈍い音を立ててドライヤーが床に落ちっ

『奈絵大丈夫か!?』

その瞬間、わっと頭の中で響いた。

あの声が戻ってくる。

『ケガしなかったか!?』

「ヨシノ…」

『気を付けろよ、足の上にでも落としたら大変だぞ!』

「ヨシノ…っ」

声が、聞こえた。

聞こえないかと思った、聞こえてないのかと…

『なんだ?』

はぁはぁっと乱れた息を整える、心臓がバクバクして胸が痛い。


最近ずっとおかしい。

何かがおかしい。


「ヨシノ…」

『ん~?』

「何かあったの?」

こんなことばっかりだ。

『何もないけど、どうかしたか?』

「最近変じゃない?呼んでも返事してくれないし!」

『そうか?別に変わりないけどな』

「おかしいよ!私の声全然届いてないみたいだよ!!」

こんなことが起きるのはヨシノと出会って初めてで、どうしても疑ってしまう。


不具合とか、故障とか、私の脳に何か起きてるのかー…