桜の咲くころ、思い出して

『人間誰でも怖いものってぇものがあるんだ、それは何故かってぇと…』

今までこんなことなかったし、ヨシノに声が届かないなんてこと絶対ないと思ってたから。

『それで、お前さんは何が怖い?おれはなぁ…』

でも昨日だけだったし、今日は大丈夫そうだし。

あれはちょっと電波が悪かったとか…
電波?電波っていうの?

あ、接触!

…違うなぁ、なんて言うんだろう。

『おい奈絵!聞いてんのか!』

「わっ」

私の方がぼぉーっとしちゃってたからあんまり聞いてなかった、ずーっとペラペラ話してくれるヨシノの落語を。

『せっかくやってんだから聞けよ!』

お昼休み、廊下の窓から外を眺めながらヨシノの落語を…あんま聞いてなかったけど。
教室にいると落ち着かないの、どこにいても聞こえてくるから伊田くんの声は…

「わぁぁっ」

『なんだよ!?急に奇声上げんなっ』

だ、ダメだ…
思い出しちゃう、思い出したら大変だ!

またドクンドクン体が…っ!

「よっ、ヨシノ…」

『んあ?あ、続き?これはオチが秀逸なんだよ、じゃあ続きっ』

「あ、落語はもういいの!ありがとう、でも今はっ」

『聞く気ねぇのかよ』

「…。」

落語も、いいんだけど。
聞かせてくれるのはいいんだけど、…でも今それどころじゃなくて。

「私…どうしたらいいと思う?」

本当はもうどこにいても落ち着かない。

「こっ、こうゆう気持ちになるの初めてでっ…どうしたらいいかわかんないっていうか、自分の気持ちもよくわかってないし、これってどうなのかなとかいろいろ考えちゃって…」

ぴしっと背中を伸ばす、誰に見られてるわけでもないのにそんな気分で。

「ねぇヨシノはどう思う?」

『オレにそんなこと聞かれても』

「でもヨシノしか言える人いないし!こんな話出来る人ヨシノしか…っ」

小さく息を吸って、ずっとドキドキして止まらない胸を押さえて。

「こんな時どうしたらいいの?わかんないよ」

『オレもわかんねぇよ』

「…ヨシノでもわかんないことあるんだ」

ヨシノに言えば何でも教えてくれると思ってた。

私が困ってたらいつでも助けてくれるから、ヨシノが知らないことなんてないと思ってた。

『人の気持ちはオレにはわからないよ』