桜の咲くころ、思い出して

しゃがみ込んだはいいけど、手が重なったまま動けない。
手をどかしてくれないと立ち上がれない、机と机の間に挟まれて伊田くんと向き合って。

「案外さわがしいよね」

「さわがしい!?」

伊田くんの一言一言に空気が変わる、世界が変わる。

ふいっと離された手が物足りなくなる。

「前も大胆にノートばら撒いてたよね~!」

「ばら撒いてたわけじゃっ」

伊田くんが笑うから、誰より楽しそうに嬉しそうに。

「伊田くんに言われたくないよ」

伊田くんが笑うと私まで笑いたくなる。

「騒がしいとか伊田くんに言われたくない」

ふふって勝手に笑いたくなるの。


こんなこと初めてだね、体がふわふわする。

伊田くんと出会って初めてのことばかりだよ。


「川瀬ちゃんもっと笑えば?」

「え!?」

「そうやって誰かに向かって笑いなよ」

「…っ」

誰かと、笑うことなんてしたことなかった。

笑い合うことなんかなくて、いつも頭の中のヨシノと私だけの世界だったから。

「川瀬ちゃん、笑うと可愛いよ」

かわっ、かわいい…!?

とか、前にも言われた気がするけど今ならちょっとわからなくもない。

「…適当に言ってる?」

伊田くんを知ってしまったから、伊田くんの考えてることはわからないけど伊田くんの言うことはなんとなくわかってきた。

「あははははっ」

すごい笑ってるし。

やっぱ適当だったんだ、真に受けちゃうとこだったよ。


真に受け…

ちゃうとこだった、私。


だってね、思ってるの。


“誰もいなくてラッキー!”


ラッキーだったよ、あの時間がこの時間が。

森木先生に怒られてもラッキーだった。


「川瀬ちゃん」

「!」

また手が触れた。
シャーペンを握った手ごと包むみたいに、伊田くんの手が私に触れる。

「嘘、本気」

急に表情を引き締めた伊田くんが近づく。

その表情に気持ちが溢れ出る、静かな教室に聞こえる私の心臓の音がさわがしくて。

「俺、やっぱり友達やめてもい?」


何も言えなくて、声が出なくて。

目を閉じたの。


初めてだったから、ドキドキしちゃって上手くできてたのかもわからないけど伊田くんを感じたくて。

くちびるに、伊田くんの感触を。



中学生になったら、恋がしたいです。



それじゃダメですか?