桜の咲くころ、思い出して

え、知ってたの!?じゃあなんで言わなっ

『でも奈絵が話しかけるなって言うから』

……。

口に出さなくてもヨシノと会話が成立しちゃった。

だけど何度も話しかけてきたじゃん、それなのに…

私も時間見てなかったんだからよくないんだけどね。
通りで誰もいなかったわけだよあんな景色のいいところ、誰もいなくてラッキーじゃなくて誰もいないから心配すべきところだったんだ。

“こんないいとこ誰も来ないなんてさ、俺らツイてない?”

あの時、微笑んだ伊田くんが、私に向かって微笑んだ伊田くんが目に焼き付いちゃって。

今でも目を閉じたら思い出しそうになるの。

心臓が声を出しそうになる。

ドキドキ、音がうるさくなるの。


私、伊田くんのことー…


「川瀬ちゃん、ごめんね!?」

「えっ」

「俺が行こうって言ったから」

手を合わせて眉をハの字にしてバツの悪そうな顔を見せた。

「あっ!ううんっ、私も気にしてなかったから…っ」

時間のことを考えてなかったのは私も一緒で、伊田くんだけが悪いわけじゃない。

「ごめんなさい」

ぺこりと頭を下げた。

申し訳ない気持ちで、私が気づいてたら遅刻はしてなかったよね…
と思って顔を上げたら伊田くんと目が合ってニッと笑って返された。

えっ!?と思う間もなく、伊田くんはスーッとバスへ乗り込んでいった。

い、今の微笑みは?
いたずらっぽく笑った表情は…?

「…っ」

また私の中で音がする、もう抑えきれないぐらい大きくなっていく。

やばい、顔が熱い…かも。