桜の咲くころ、思い出して

それは不思議な力で伊田くんの何がそうさせてるのかなって。

「話すのって案外簡単だよ?」

たぶんね、伊田くんは好きなんだよ。

誰かと話すのが好きなんだ。

でも私は…

「できないよ、伊田くんみたいに…」

「声出すだけだよ?」

「……。」

行動的にはそうだけど、気持ち的にはそれがむずかしくてうまくできないんだけどな。

でも伊田くんには伝わらなそうっていうか、伊田くんの中にそんな考えなさそうだから。


いつも楽しそうな伊田くんには。


「何話せばいいかわかんないし、私と話してもつまんないと思うから」

「つまんないかどうかはこっちが決めることだよ」

「でも…」

「てか俺は川瀬ちゃんとしゃべってて楽しいと思ってるし」

え、楽しい?
かな、私としゃべってて。

私は私にそんなこと思えないよ。

ニッと笑った伊田くんがごそごそとジャージのポケットから何かを取り出して私の前に出した。

「はいっ」

どうぞ、と渡されたのはレモン味のキャンディ。
私の手のひらの上にちょこんと置かれ、少しだけ触れた手にドキドキした。

「思ったこと言えばいいんだよ、真っ直ぐな言葉って相手に伝わるから」

じんと心に響くような。


伊田くんは真っ直ぐだから、伊田くんの言葉は透き通ってる。

私に勇気をくれる、そんな気がするの。