桜の咲くころ、思い出して

“それいつも誰としゃべってるの?”

ひゅーっと風が吹いて桜が舞う、八重桜の花びらがふわーっと風に吹かれていく。

「え…」

私の方をじっと見て、少しだけくちびるの端っこを上げた。

「それ、誰かとしゃべってるよね?」

くすっと微笑むように振り返った伊田くんは余裕な態度を見せ、風で乱れた髪の毛を直した。

中学に入学してひそひそといろんなことを言われてるのはわかってた、だから気をつけなきゃって…


だけど気づかれることはないと思ってたの、“それ”に。


「独り言じゃ、ないよね?」

伊田くんの目の色が変わる。
見開いた目につかまったみたいで何も言えなくなった。

「…っ」

『……。』

わからないと思ってた。

誰にも見えないから、私にしか聞こえないから、そんなこと言う人なんていないって。

伊田くんに言われるなんて思ってもみなかった。


もしかして伊田くんはー…?


「ねぇ川瀬ちゃん、それって…」

ゴクリと息を飲む、急に強くなった風に吹かれてぎゅっとスカートの裾を握りしめた。


私の中の存在に気づいてー…っ


「幽霊!?」


…え?幽霊?

幽霊って言った!?


パァッと伊田くんの声が明るくなった。

「俺心霊系の話大好きなんだよね~!!!」 

し、心霊系…!?

何を言われるのか心臓がバクバクしてあせってたのに、それはちょっと想像してなかった。

「川瀬ちゃんは見える人なの!?俺全然わかんねぇの、でもそーゆう話超好き聞きたい!」

そう言われましても、私もそんな人じゃないんだけどなぁ…

「ねぇ川瀬ちゃん!」

キラッキラに目を輝かせて一歩近づいて、その表情に私は一歩後ろに下がっちゃった。

『伊田ってマジそんな奴なんだな』

ヨシノ、本当いらないこと言わないで。

『オレ幽霊だと思われてんだな、化けて出てやろうかな~』

「……。」

出れるものなら出てみてほしいけど、なんなら私の前にも。
本当にできたらいいのにって思っちゃうじゃん、そんなの。