桜の咲くころ、思い出して

「ほんとだ、でも誰かとしゃべってるみたいだったよね?」

隣にいたもう1人の女の子も同じ顔をして私の方を見てた、だからさらに下を見てこれ以上見られないようにって…


「独り言?」


ハッとして吸った息を吐くのと忘れてしまうみたいに体が固まる。

また、やっちゃった。
さっきダメだって思ったばっかだったのに。


「隣のクラスのインコちゃんじゃない?」


早くここから逃げようって思ったのに…、足が動かなくなる。

「インコ?」

「って呼ばれてるんだよ」

私の知らぬ間に私の別の名前ができていた。

「いつもひとりで喋ってるからインコ!」

それはおしゃべりする鳥って有名なやつで、機嫌がいいとずっとしゃべってるんだとか。


私もそんな風に見えてるのかな?

そんな風に見えてるの?


『奈絵?』

「…。」

息を吸って振り返らずにトイレから飛び出した。

スタスタと早歩きで、動かしてる足だけを見て。

『奈絵…』

教室に戻ろう、戻ったらもう口は開かない。

呼びかけにも答えない。


だから呼びかけないでね!


…って言いたいけど、言えない。


だってヨシノの声は私にしか聞こえないから、私にしかわからない。


ヨシノの姿は見えなくて、それは私にも見えない。

ただ存在しているの、私の頭の中で。