桜の咲くころ、思い出して

「あ、いた川瀬ちゃん!」

ひょこっと現れた、私の中にするりと入り込んでくるあの声が。

不思議だった、その一言で痛みが消えちゃったから。

ガンガン響いてた音がなくなったから。

「あ、まじーもいたんだ」

「うん、もう帰るけどね」

伊田くんは真島さんのことをまじーって呼ぶほどの仲らしい、さすが名簿見て名前覚えてるだけあるなぁって思った。

真島さんがばいばいと手を振って帰っていく、私にも振ってくれたからとまどいながら振り返した。

『奈絵大丈夫か?』

「…。」

返事をしたかったけど隣に伊田くんがいると思うとできなくてうんってうなづいてみた、これじゃあヨシノに伝わらないのはわかってたけど。

「あ、そうそう!川瀬ちゃんのこと探してたんだ!」

くるっと伊田くんが私の方を見たから私も同じように伊田くんの方を見ちゃって目が合った。

探してたってなにかなぁ、私を探してたって……


「一緒に帰らない?」


え、一緒に帰る…?

って、私と!?


ドッと心臓が大きく音を出したから自分でもびっくりした。

さっき頭の痛みとは全然違う、わーってドキドキが体の中をかけめぐる。

「え、あのどうして…っ」

でもちょっとだけ不安で。
今のは本当に私に言ったのかなって、勘違いじゃないかなって。

「約束したじゃん」

伊田くんが私を見る瞳は透き通っていてまぶしかった。

「帰らない?一緒に」

“川瀬ちゃん、今度は一緒に帰ろうよ”

にこっと微笑む伊田くんにドキドキする心臓の音はもっと大きくなって、どこかおかしいんじゃないかと思った。

伊田くんといるとどうしてこんなに胸がざわつくんだろう。