桜の咲くころ、思い出して

にぶい痛みが心臓をえぐって。

私の名前じゃないその名前はもう聞きたくなくなかった。

「友也、インコと何してんの?」

ぎゅぅっと目をつぶる、見たくなくて。

呼んでほしくなくて。


伊田くんの前では聞きたくないー…っ


『奈絵!耳を塞げ!俺の声だけっ』


「川瀬ちゃんね、川瀬奈絵ちゃん」


伊田くんの声にぎゅっと力の入っていた瞳がぱちっと開いた。こそっと顔を見上げれば伊田くんが“ねっ”て笑ってた。

どんな時も伊田くんは笑うんだね、笑ってー…

「さっき川瀬ちゃんが教えてくれたんだけど、曇ってる方が写真撮るのに向いてるらしいよ」

言ったけど、みんな眉と眉の間にしわ寄せちゃって全然信じてないって顔してる。気まずすぎる。

「太陽の光のこと考えなくていいから影になるとか気にしなくていいんだってさ!」

でも伊田くんはそんなことお構いなしにスラスラと話して…

「すごくない?」

ぱぁっと明るい笑顔を見せた。

たぶんちっともすごくない、これっぽちもすごくない。

「だからみんなで写真撮ろ~!」

大したことなんか言ってないのに、私。


でもね、この瞬間変わったから。

ずしんと重い気持ちだった私の心も、私を見ていたみんなの表情も、ふわっと風が吹くみたいに。


伊田くんの言葉で全部がクリアになった。