桜の咲くころ、思い出して

昨日は少し変わった気がしてた。
少しだけ扉が開いたような、だけどそれは伊田くんと話して変わった気がしてただけで私は何も変わってない。

「…ねぇヨシノ、いる?」

急に不安になる。

その場にしゃがみ込んで、顔をひざの上に置いて隠れるみたいに下を向いた。

ここには誰もいないから私しかいないから急に怖くなったの。


もしかして私は1人なんじゃないかって。


「ねぇ…」

私が話さないって決めたのにね、私が話しかけないでねって言ったのにね…
声が聞きたいって涙が出そうになる。

「ヨシノ…」

いるよね?私の中に、存在()るよね…

私1人じゃないよね?

「ねぇ…っ」

『奈絵…』

かすかに声が聞こえた、小さくささやくみたいな声が。

それは私を安心させてくれる声に、涙が―…


『日本一でかい花はショクダイオオコンニャクだよ』


…………え?

『サトイモ科の植物で数年に一度たった2日しか咲かないんだ』

な、なんで今それを?

『咲かせるのが困難な花だけど日本でも見られる場所はあって』

へ、へぇ~…そうなんだ。
データまとめるって言ってたもんね、それ教えてくれてるんだね。

『かなり珍しい品種だから長蛇の列が出来るほど人気だけど困ったことに…』

でも待って、それ今かな?今言うことかな?あと別に私頼んでなっ

『とんでもなく臭せぇ』

「ふっ」

ヨシノがふぅってタメ息をつくみたいに言うから、思わず声が出ちゃった。

『咳込みながら見るのが通例だ』

「何それ、そこまでして見たいんだ」

1回笑っちゃったから、しゃがみ込んでちっちゃくなったままなのに体はゆれて止まらない。
さすがに声を出して笑うことはできないから必死に声を殺して、それでもちょっと出ちゃってたかもしれない。

『奈絵も見る時は覚悟しとけよ!』

「見る時ないよ」

こぼれそうだった涙はどこかへ飛んでいってしまって気付けばどこにもなかった。

ヨシノが、笑わせてくれるから。

『奈絵!』

「ん?」

顔を上げて立ち上がる。

授業が終わる10分前には美術室に戻らなきゃだもんね、あとちょっと写真撮って…