桜の咲くころ、思い出して

まだ私に用だったのかな?
お礼は言ったし、もういいのかなって来ちゃったけど。

下駄箱の方へ向かおうとしていた足を止めて振り返る。

「何か…あった?」

「先に帰っちゃうから」

「え?」

伊田くんは先生と楽しそうに話してたから、もう用は済んだし私はいいかなって…

「あっ、ごめんなさい!先に帰るとかそんな…っ」

正直、私の中にそんな考えはなかった。
頼まれたことは終わったし帰ってもいいかって、まさか私を追いかけてくる人がいるとは思わなかったから。

「一緒に帰るとは思ってなくて!」

だってそんなこと…っ!

「うん、一緒に帰るとは言ってないけどね?」

そう、言ってない。

まったくもって言ってない。


あ… 

あぁぁーーーーーーっ!


いつも頭で思ってたことが口に出ちゃった…!


「あっ、ごめ…っ、えっとっ」

『奈絵落ち着け、ひつじを数えろ』

それって今!?
こうゆう時にするものだっけ!?

たぶん違う!

「あの…っ」

「友達と一緒だったよね?」

「え…?」

「だからその子と一緒に帰るのかと思って」

その子、って…?

私の他にここは誰もいない、そもそも私に友達なんて…

「誰かと話してたよね?」

「…っ」

あ、また…!

またやっちゃった、わかってたのに。

『こいつにオレの姿は見えないからな』

私にはヨシノしかいなくて。

「あ、ごめん…違った?てっきり誰かと話してんのかと思ったんだけど、じゃあ…」

私のそばにヨシノがいるのが私の生活だったから。


「独り言?」


他の人にはそう見えてること、私にはわからない。

「…っ」

“いつも1人でしゃべってるからインコ!”

きっとね、わかっちゃったと思うんだ。私がどんなやつかって、伊田くんにも。

『奈っ』

「川瀬ちゃんっていつも笑ってるよね」

そんな明るくてやさしい声で言われたのは初めてだった。