桜の咲くころ、思い出して

『奈絵がどんくさいから帰る時間遅くなっちゃったじゃねぇかよ~!』

「……。」

『見たいアニメの再放送あったのにさ!』

「…。」

『あ、アマプラで見ればいいじゃんとか思った!?あれは再放送で見るのがいいんだからな、また明日も見なきゃって毎日の日課だから!見ないと学校から帰ったって気しないんだよ!』

頭の中がうるさい…
そんなに言わなくても帰るから、今ならまだ間に合うから。

職員室から出て今度こそ下駄箱へ向かう、少し遅くなったこの時間の廊下は静かだった。
あんまり職員室へ行く人がいないだけかもしれないけど。

というか職員室以外にどこに続いてるのかなぁこの廊下は、それもまだわかんないや。

「あ、桜」

ふと、何気なく窓の外を見たら遠くの方に数本ピンク色の花をつけた木が見えた。
青い屋根の物置の隣で、ゆらゆらとピンク色の花がゆれているのを見てつい声に出してしまった。

今年初めての桜だったから。

『あれは桃の花だ』

でも違ったみたい。

『似てるけどな、ここから見たらほとんど桜に見えてもしょうがないくらい』

「…へぇ」

『近くで見たらわかるけど、桃の花はピンクだけじゃない。濃かったり薄かったり、赤っぽかったりいろんな花が1本の木に咲くこともある』

そうなんだ、桜の木は気にして見るけど桃の木はあまり気にしたことなかったかも。似てるけどそんな違いがあるんだ。

『あと香り!桃の花は顔を近づけてもちょーっと感じるぐらいでほっとんどしない』

桃の花ひとつでここまで教えてくれた。

無駄なく、そしてわかりやすく。

ヨシノは本当、なんでも知ってるよね。