何やってもうまくいかない犬飼さん




すぐに、何か大きな影が自分に覆い被さっていることに気づく。


温かい体温。春の日差し。どくどくと伝わってくる心音。


横断歩道の向こう側には、心配そうにこちらを見つめる犬飼さんの姿があった。



「久しぶり。美久乃」



抱き合うような、押され合うような、不思議な体勢で、わたしは横断歩道のど真ん中にいた。トラックは偶然止まってくれたみたいだ。わたしの心臓は、まだどくどく鳴っている。



「美久乃?」



そのため、自分を呼ぶ声が全く聞こえていなかった。


トラックの運転手に会釈をし、横断歩道をわたる。


自分を助けてくれたメガネの男子は、眉間に皺を寄せて、犬飼さんを見る。



「誰?これ」

「あ……どうも、犬飼幸といいます」

「本当に誰」



申し訳ないけれど、少し老けているその青年の顔には、どこか心当たりがあった。



「もしかして、鳥越(とりごえ)くん?」

「ん。久しぶりだな。美久乃」



えーっ、あの時の鳥越くん!?本当に!?


わからない人しかいないと思うので、説明するけれど、鳥越くんこと鳥越公貴(とりごえ・こうき)くんは、わたしの幼馴染だ。


昔は臆病で気弱ないじめられっ子だったのに、今目の前にいるのは——


緑色のカーディガンがよく似合う、眉間に皺の寄った大人っぽい男子。髪型もオシャレで、メガネも似合っているのに、どこか老けて見えるのは、彼が抹茶好きと知っているからであろうか。



「知らんけど、何その眼帯。前見えてないんじゃないの?」



え……?


昔のキャラと違くない?


昔はもっとさ、言い返せないタイプだったのに、なんか初対面の人煽ってるんだけど。



「僕……これだけは外せないんです」

「はあ?ダサいから取れって。君のこと思って言っているんですよ?」

「……」



悲しそうに犬飼さんは黙り込んでしまった。そういうキャラではないので言い返せないのだろう。



「……ところで美久乃。クラス何組ですか?」

「え、えっと……一組だよ?」

「一組か……よし」



——これから一年ずっと一緒だな。


鳥越くんが小さくつぶやく。わたしは目を丸くした。



「祖母が急に倒れまして。一年間だけ地元で過ごすことになったんです。つまり美久乃のクラスの転入生」

「え?鳥越くんが?」

「うん。これからよろしく」



なぜか、彼との話を楽しく感じている自分がいた。


そんなわたしたちを、犬飼さんはジトーッと見ている。