「聞いたんですよ。永瀬さんが僕のこと好きって」
いや、全然。
「それどこ情報?」
「クラスメイトの方々です」
わたしはため息をついた。まさかと思っていたら、まさかのそのまさか。うちのクラスメイトはろくなことがない。
誰が好きになるのだ。こんな包帯ぐるぐるガーゼベタベタ絆創膏だらけの眼帯男のことを。ってか、彼、暇なのか。
「だって……こんな不運まみれの僕でも、好きって言われたら……うん」
はぐらかしながら彼はぎこちない笑顔を浮かべる。少し目の焦点があっていない気がするが、これは気のせいだろうか。
「お願いします。公園で暮らせる気がしないので……」
語尾が小さくなるあたり、彼は臆病な男子高校生なのだろう。わたしは彼を放っておけなかった。かと言って自分の家に住ませるのも……。
住ませてしまった。彼は「おお〜」と言いながらリビングルームを眺める。
「すごい!広い!綺麗!」
これで綺麗とか……彼の部屋はどれだけ汚いのだろうか。
「僕は犬飼幸。犬を飼う幸せって書いて、犬飼幸です。よろしくね」
彼の自己紹介に合わせて、わたしも自己紹介する。
「永瀬美久乃です。永い瀬の美しく久しい……乃って書きます。よろしく」
わたしが自己紹介をすると、彼は満足げな顔をした。
……と思ったら、突然やつれきった表情になる。
「いぬかいこう……名前占いで大地獄行きだ……」
犬飼さんは、ちょっと情緒不安定で、ほとんどいいことなくて。
なぜか、ちょっと『推し』に似てる。
クラスメイトの不運王子――【ダメ犬男子】を住ませてしまった。
まあ所詮は彼の部屋が直るまでの関係だろう。耐え続けるだけでいい。それだけだ。
そう思っていたはずなのに。

