何やってもうまくいかない犬飼さん



そのまま、目まぐるしい一日がすぎていき、いつの間にか誤解は解けずに家までたどり着いていた。


マンションの十四階。わたしは一人で暮らしている。



⚠︎修理中なので、近づかないでください。



わたしの号室の隣。なぜか家がボロボロになっていて、焼けた匂いがする。わたしは違和感を感じながらも、自分の家の鍵を開けた。



「ただいまー」



誰かに対していうはずでもない。なぜか言ってしまうのだ。親にも「ただいま」を言えずにいたので、「ただいま」を言いたいという願望がどこかにあったのかもしれないな。


自分の部屋へ向かうと、剥ぐように制服を脱ぎ、部屋着に着替えた。そしてベッドにダイブする。



「しょーたろー!!待ってた?帰ったよ、美久乃だよ」


と話しかける。しかもフィギュアに。


わたしは他人から見たら異常なくらいのオタクなのだ。結婚できることなら昇太朗と結婚したっていい。いや、むしろ結婚したい。そう思っているくらいである。


今まで何人の人にキモオタ扱いされてきたことか。まあ実際キモオタなのだが。






ピンポーン






ん?


宅配便を頼んだわけではないし、放課後遊びに来るような友人もいないのだが……なぜチャイムが鳴ったのだろう。さては実家からの贈り物……愛のない親がするわけない。


わたしは玄関のチェーンをセットして、恐る恐る扉を開ける。すると外から「わっ」という小さなか細い悲鳴が聞こえてきた。



「……す、すみません。貴方から見たら近隣住民にあたります、犬飼です……あの、部屋を爆破してしまいまして……」

「は?」

「いや……ほんとなんです。その……」



何やら言い訳じみたことをボソボソと言い続ける犬飼さん。どうしたのだろうか。美しい顔には似合わないし、朝のキャラと違う気もしなくもない。


そして何より、彼の横に置かれた大きなトランクケースが気になる。



「やってみたくて、水素爆破」

「す、水素爆破!?」



水素爆破て……何をしているんだか。


待てよ、水素爆破?



「昇太朗と同じだ」

「え、し、知ってるの?」



犬飼さんが目を輝かせる。それはまるで大好きなおもちゃを見つけた犬みたいで。



「知ってるよ。わたしの推しだから」

「え、え、どどど、どういうところが好きなの?」

「どうって……なんだろう。無口だけど秘めたる闘志って感じなところかな?」

「わかる!好き!!」


彼の勢いに思わずのけぞった。彼はキラキラした可愛らしい瞳でわたしに近づく。



「わかる〜。特に大泉戦は神だよね。空城の計的なやり方で大泉を油断させて、後を突く!!そしてさ、最後の最後で水素をドーンっって!!はぁ〜かっこいい」



一人で快楽に更けている犬飼さんに、わたしは圧倒された。


彼の方がわたしよりもオタク度高いかも。



「って、すみません。勝手に暴走してしまいまして……」



彼の見えない尻尾がしゅんとなったように感じた。わたしは焦って会釈で返す。



「やばい、好きすぎて●んじゃう」



それでも彼のオタクっぷりは止まらなかった。顎らへんに両手をあてて、あわあわと想像に浸っている。



「そのトランクケース……?」

「生き残りの品です」



嫌な予感が脳を遮った。わたしは声を震わせる。



「あの……わたしになんの用が?」

「あ。ごめんなさい……。その、とても言いにくいことなのですが」