何やってもうまくいかない犬飼さん




あれから月日はだいぶ経った。



「帰ってきたぞ、静岡」



鳥越くんは大型車から降りると、満面の笑みで静岡の地を眺めた。


彼の故郷、静岡を。


元々はVTuberとして活動していた鳥越くんですが、


大手事務所からスカウトが来て、現在はアイドル活動をしているそうです。


コンプレックスだった老け顔も、薄めのメイクで完全に化けたみたいで、


ファンイベントのチケットはわずか三分で完売したらしいです。


今は東京ドーム公演を終わらせてからの休暇中なんですって。



「ちょっと鳥越くん……ファン集まったら面倒だから静かに」



らしくなくスーツ姿の青年。髪は相変わらず金髪だ。


申巻くんは、一回高校を退学して、受験し直し、とある私立高校に進んだそうです。


そしてその学校で人生をやり直し、現在は現役京大生なんです。


大学生と並行して、バレーのコーチを勤める彼をわたしは尊敬しています。



「お似合いですよ、美久乃さん」



とウエディングプランナーの長浜さんに言われて、わたしはくすぐったくなった。


お化粧をするのは人生で初めてだし、


こんなにドキドキするものなんだなって。


色々あって式は予定日より3週間遅れちゃったけど、


今のわたしはとっても幸せです。








ゴーンゴーン






と鐘がなる。



『新婦様の入場です』



着慣れないウエディングドレスを着て、わたしは彼の方へ歩き出した。



甘い花の香りにわたしは包まれて彼の元へ向かった。



『やってみたくて、水素爆破』

『す、水素爆破!?』

『昇太朗と同じだ』

『え、し、知ってるの!?』



最初はただの「同じアニメが好きな同担さん」だったのに。


それがいつの間にか、


“好き”に変わってた。



『好きです。結婚してください』



「護り抜きます。一生」


たとえこの身が朽ちようとも。



わたしはそっと目を閉じた。


こうなる日が来るってわかってたから。



彼の優しい口元と触れ合う。


今まで感じたことのない感触に身を委ねた。


もう、彼の虜になってしまった。



『ではウエディングケーキを……』



スタッフさんがウエディングケーキを持ってくる。ケーキサーバーはゴロゴロとらしくない音を立てていた。


タイヤの音がどんどん大きくなる。


ゴロ、ゴロ、
ゴロ、ゴロ、
ゴロ、ゴロ、


あれ?



パンッという音と共に、タイヤが外れた。タイヤが外れたことで、ケーキがわたしたちの方へ飛んでくる。


恐怖で縮み上がっていたわたしの前に、白い影が覆い被さった。



「犬飼さん!?」



犬飼さんの顔面に真っ白なホイップクリームが付着する。


頭の上にはいちごが乗っていた。









ひゅーん







「永瀬さんは甘いものが苦手らしいので……ゴボッ」



やっぱり犬飼さんは


何やってもうまくいかないんだね。


でも、それがあなたらしくて、


わたしは大好きです。