上映が始まった。主演俳優の顔面偏差値が揃いも揃って高すぎて圧倒される。
そして演技が素晴らしい。観ていていっさい違和感がない。
『あははははははは、ねえケント?わたしのこと、嫌いぃ?』
ケントの後ろから現れた死人のものと思われる手。その手はケントの肩を掴む。そして今度は顔が出てきた。髪の毛の生えていない坊主頭の女性。
『わたしはね、ケントのことだぁい好き』
勢いよく、ケントの耳を女性幽霊が噛んだ。ケントの断末魔が会場に響き渡る。
わたしは恐怖で首しか動けなかった。ここが現実であることを確かめるために左右を見渡す。
そして、一握りの違和感を抱いた。
右側に座っているはずの犬飼さん。
目元がなぜか光っているような……
え?もしかして泣いてる?
(小声で)「犬飼さん。だいじょうぶ?」
(小声で)「ひゃう」
え。やっぱ泣いてるよね?大丈夫?
(小声で)「ホラー苦手なの?」
(小声で)「そんなわけないです」
嘘つけ絶対苦手だろ。体ガックガクですもん。
ドドーーーーンッッ
大きな雷が落ちる。そしてケントの死体が映し出された。身体中にナイフが突き刺してあり、白目を向いて死んでいる。
犬飼さんは声すら出せずに後ろへひゅーん。
「むぅ……」
叱られた時の犬みたいな声を出して、彼はシートごと倒れた。って、シートゆるすぎない?
調べてみると、わたしのシートは全くゆるくなかったので、犬飼さんの座っていたシートが偶然不具合でゆるくなっていたことが判明した。まあ確かに不運な話だ。
上映が終わり、地獄の映画館を抜け出したわたしたちは、世界の美しさを知った。
これほど世界は明るかったのか。
「でも、面白かったね。まさか吉田が犯人とは」
「そ、そ、そうですね……僕は香織が犯人かと」
「え?そう?わたしは五島かと思ったけどな」
と帰り道は映画の話で盛り上がる。後半になるにつれて主人公であるケントの後輩である吉田の狂気が見え隠れし始めた時の恐ろしさは半端じゃなかった。吉田役の俳優は若手だが演技を評価されていた俳優で、確かに相当演技が上手いのだと確信する。まさかネット民の言うことが当てになるとは。
帰り道、突然、犬飼さんが頭を下げてきた。わたしは思わず目を丸くする。
「今朝は嘘ついてすみませんでした……」
「え?」
「全然正常じゃなかったんです……。僕、本当はすっごいホラー苦手で……」
彼の謝罪に、わたしは吹き出した。
「言われなくてもわかってましたよ。なんとなく」
「えぇ……」
「ほんと、弱いんですね、犬飼さんは」
わたしが笑うと、彼は少し不服そうな、それでもどこか嬉しそうな表情を浮かべた。

