何やってもうまくいかない犬飼さん




申巻くんは先生に連行された。


傷だらけの犬飼さんを心配してクラスメイト——しかも九組の生徒まで——が集まる。



「大丈夫か?」

「おでこ……痛くない?」

「よく見たらかっこいいね」



それらの声にも、犬飼さんは震えているだけだったのだ。わたしは彼の元へ近寄り、一応充備していたガーゼや包帯を巻く。また指が絆創膏だらけになってしまった。



「ごめんね、美久乃。先生気づけなくて……」



わたしの元へ駆け寄ってきたのは担任の深川だった。深川はわたしたち生徒のことを下の名前で呼んでいる体育教師だ。しかし人を指導するのが苦手らしく、よく他の教員の手を借りている。



「岡本先生が話は聞いてくれているそうだから……。あと幸は大丈夫?」

「はい。手当てはしましたので」

「ならよかったけど……」



深川は何か言おうとして躊躇った。喉の奥でつっかえていることを、言おうか言わまいか悩んでいるようだ。



「言いたいことがあるなら言ってください。受け止めますので」



とわたしは深川に言う。すると深川は「心強いね」と微笑んできた。



「それが……申巻くん、ずっと美久乃のことで悩んでたらしいの。過去にトラブルとかあった?」

「いえ……トラブルらしいことはなかったかと……」



申巻くんが悩んでいた。そのことは初耳だったので少々驚きを隠せずにいた。