わたしは息を呑む。
運動神経の悪い(自称)犬飼さんがドッヂボールなんて、できるのかな……?
「あばばばば……できるわけないって……」
どうやら彼もわたしと同じことを考えていたらしい。
「最初はグー、じゃんけんポンッ」
犬飼さんは震えながらじゃんけん現場を見ていた。勝ったのは一組、負けたのは九組だ。
「おい犬飼」
「ひゃう」
「なんだその声は」
クラスメイトの大橋に声をかけられて、犬飼さんの心臓が跳ね上がる。涙目で彼は大橋の方を見た。
「ジャンプボール、お前がやれよ」
「へえぇ?」
「申巻にお前の腕を見せつけてやれ」
ボールを投げ渡された犬飼さんは、いつも通りあばばばばと言いながらボールを見つめる。
「僕、運動神経悪いし……絶対大橋くんの方がいいって……」
それでも大橋は首を振る。犬飼さんの顔は絶望で満ち溢れた。
「い、いきますよ……?」
犬飼さんはボールを空へ向かって突き上げた。そしてボールに向かって渾身の平手を——
「ひゃっ」
完全にからぶった犬飼さんは、地面にべたっと転げる。今度こそ額から血が出てしまった。
こぼれ球を拾ったのは、わたしと腐れ縁の仲である、申巻くんだった。
「残念だな、犬飼」
「……」
犬飼さんは申巻くんを睨みつける。
申巻くんは倒れた犬飼さんの顔にボールを当て続けた。
立ち上がったら、ボールを当てて、動いたら当てて、顔面セーフで生き残ってる。
「大丈夫!?」
わたしが彼に声をかけるが、犬飼さんはらしくなく鋭い目線でこちらを見た。
「大丈夫。僕、これだけは譲れないんだ」
それでも、頬も擦りむけ、ふらふらしている犬飼さんが心配でたまらなかった。
「先生!止めてください!!」
思わずわたしは叫んだ。鼻血が出て顔中ぐちゃぐちゃになった犬飼さんがこちらを見上げている。
授業のくせに、ろくに責任も持たず、好き勝手している教師に腹がたった。
「これは不運じゃ済まされないことですよ!いじめです!!」
授業中にも関わらずわたしは声を荒げる。すぐに教師たちが近寄ってきた。

