トイレの鏡の前。僕は突っ立っていた。
ゆっくり左目に手を伸ばし、眼帯を取る。
「……はぁ」
心の底からため息が漏れ出てくる。
ずっと孤独で、何もできなかった僕。そんな僕を優しく手当てしてくれる永瀬さん。
現世に生まれ変わってきてくれた神様なのではないかと思う。
従兄弟同士ではないけれど、
僕が前田利家で
彼女はまつなのかもしれない。
……だなんて、マニアックな妄想ばかりしている。
「永瀬さん……」
鳥越がいい奴なのは理解した。
それでも、申巻だけは許せない。
永瀬さんの話によると、申巻は鳥越をいじめていたらしいし、少なくとも正常な奴ではないだろう。
眼帯を付け直すと、僕はトイレから出て行った。
「……あ!犬飼さん。遅いですよ〜」
僕が体育館に向かうと、すぐに永瀬さんが走り寄ってくる。人の帽子に足を滑らせ、永瀬さんが転けそうになったので、僕は急いで彼女の元へ向かう。
ひゅーん
「いて……」
永瀬さんは受け身を取ったので、しっかり生きているが、僕はすってん転んでしまった。おでこを打って額を擦りむく。
「あれが一組?なんかドジじゃね?」
「あれだよ、噂の【不運王子】」
「あー、知ってるかも」
九組のクラスメイトの会話が突然耳に飛び込んできた。
「いいよお前ら。あいつから潰せばいい」
と言ったのは紛れもない申巻。
「ではまずは男子の対決からね」
と担任教師、深川の声が体育館中に響き渡った。
「並んでね〜」
そう言われて僕ら一組の男子たちは、九組の男子たちを向かい合う。
「よろしくお願いします!!!」
「ます!」
いきなり挨拶を始めたので、僕は一歩遅れて「ます」だけを叫んだ。
一組対九組の試合は、案外すぐ始まった。
コートの端っこで震える僕。
不意に、誰かから笑われているような気がした。

