氷山くんが帰ったあと、もう一度ベッドに寝転んだ。
ひたすらゴロゴロして過ごすはずだった休日がなんだか騒がしいものになってしまった。
でも、心配して来てくれたことが純粋に嬉しかった。
頼まれた仕事を途中で投げ出すことになってしまったのは申し訳ないし、それが生理痛だということもなんだか恥ずかしいけど。
それもこれも瀬川さんが大げさに体調不良だなんて言うから。
私は別に最後まで居られたのに。
違う……。
瀬川さんは悪くない。
ただ心配してくれただけ。
なんか私、いちいち瀬川さんのせいにして嫌なやつだ。
いつまでも過去のことを引きずってこじらせているのは私のほう。
瀬川さんは普通に接してくれようとしているのに。
いや、ただの同僚ってだけなら家まで来たりしないか?
わからない。彼が何を考えているのかも、今の距離感も。
それでもやっぱり四年前のことに納得がいかないのは変わらない。
私は本当に、瀬川さんに体で媚びを売って仕事をもらっていたのだろうか。
時々、そんなことを思う。
体の関係はあったのだから、瀬川さんがそうだと言えばそういうことになる。
意図せずとも噂は本当だったということだ。
彼の本心を聞かないまま避けてしまっているのは私。
それはきっと答えを知るのが怖いから。
噂は間違ってないと言われたら、私はもう何を信じればいいかわからなくなる。
ただ、私のことを好きじゃなかったとういことは確かだ。
好きでいてくれていたなら、付き合っていないとしても、噂は否定してくれたはずだから。
『兼森さんが仕事に真剣向き合ってること知ってます。公私混同なんてしないことわかってます』
氷山くんに、会いたい……。
さっきまでこの部屋にいたのに、もうそんなことを思ってしまう。
彼といると落ち着いて、自分が肯定されたような気になる。
完璧じゃない彼が、一生懸命変わろうとしている姿に、そばにいたいと思う。
というかこれって……私、氷山のこと、好き、なのかな。
はっきりと気持ちを言葉にすると、なんだかむずがゆい。
でも、これはきっとそういうことだ。
私、氷山くんのこと好きなんだ。
もっと知りたいと思うのも、そばにいたいと思うのも、今の関係を壊したくないと思うのも、全部彼が好きだから。
氷山くんは、私のことをどう思っているのだろう。
嫌われていないことはたしかだけれど、それ以上の感情はあるのだろうか。
キス、されたし期待してもいいのかな。
でも、そそられたっていうのは好きだからってわけではないことは身にしみてわかっている。
必ずしも心と身体が一緒というわけではないのだ。
好きに、なってもらいたい。
それって、どうすればいいんだろう。
大人になってからの恋って難しい……。
◇ ◇ ◇
自分の気持ちをはっきりと自覚したところで何も変わらないのに、どうしてか氷山くんを見ると緊張するようになっていた。
バレないように平静を装い、いつも通り接するのが大変だ。
いや、別にバレてもいいのか?
でも彼の気持ちがはっきりわからないまま気持ちを打ち明けるのは勇気がいる。
それでもやっぱり会社で彼を見かけるとそれだけで嬉しかった。
資料室へ行った帰りエレベーターに乗っていると、途中の階から氷山くんが乗ってきた。
そしてもう一人、見慣れない女性。
社内の人間ではない。来客だろうか。
私は軽く頭を下げてそのまま乗っていると、女性が私をじっと見て口を開いた。
「あのー、総務部の、兼森さん?」
「え? はい……」
なんで知っているんだ、と思ったけれど彼女の視線は首から下げた社員証にあった。
「私たち今から打ち合わせするんだけど、お茶、お願いできるかしら?」
「へ……」
突然のことでびっくりして変な返事をしてしまった。
氷山くんも驚いたのか、急いで割って入ってくる。
「あ、桜田さん! お茶は俺が淹れるんで」
桜田さん?
もしかして桜田ホールディングスのご令嬢なのかな?
社長のお孫さんがとても優秀だと聞いたことがある。
氷山くんが契約を取ってきたし、可能性は高い。
まあ、誰であろうと来客には変わりない。
「かしこまりました。氷山くん、どこの会議室使うの?」
「えっと……第二会議室です」
「このあとすぐに準備して伺います」
「すみません、ありがとうございます」
そしてエレベーターが到着して、私はそのまま給湯室へと向かった。
二人分のお茶を用意し、第二会議室へと運ぶ。
お茶くみは部長から時々頼まれるので慣れている。
それにしてもさっきの女性、綺麗だった。
なんか私を見ながらずっとニコニコしていたし、いきなりお茶をお願いだなんて大物の気配もする。
会議室に着き、三回ドアをノックする。
「はい」という返事を確認して中へと入った。
桜田さん、氷山くんの前にお茶を置き、頭を下げて部屋を出ようとすると「ちょっと」と引き止められた。
「兼森さん、時間ある? あなたも一緒にどうかしら」
「え? 一緒にというのは……」
「ね、いいでしょ。樹くん」
樹くん?!
氷山くんのことを名前で呼んでるの?
「ですが兼森さんも仕事がありますし」
「今忙しい? そんなに長くはならないのだけど」
「特に急ぎの仕事はありませんが……」
「じゃあいいでしょ? 座って?」
よくわからないけど、仕事相手には変わらないだろうし失礼になってもいけないと思い、私も椅子に座った。
隣には氷山くん、向かいには彼を名前で呼ぶ桜田さんという女性。
いったいどういう状況なんだ。
戸惑っていると、彼女が微笑みながら口を開いた。
「桜田ホールディングス経営戦略部主任の桜田絵里花です」
「テンダー製紙総務部の兼森すみれです……」
「よろしくね。樹くんは大学の後輩なの」
そうだったんだ。
ということは、確実に私より年下……貫禄と余裕が違いすぎる。
そして桜田ホールディングス社長の孫娘。
「よろしくお願いします。あの、なぜ私も同席を?」
「今日は打ち合わせっていうより挨拶がてらの談笑がメインだから楽しくお話したいと思って」
楽しく、お話?
それならなおさら私なんていない方がいいのではないか?
隣の氷山くんは気まずそうに私を見るけれど、取引先相手でかつ先輩となると強くは出られないんだろう。
桜田さんはずっとニコニコしているし、場に流されて奇妙な座談会が始まってしまった。
ひたすらゴロゴロして過ごすはずだった休日がなんだか騒がしいものになってしまった。
でも、心配して来てくれたことが純粋に嬉しかった。
頼まれた仕事を途中で投げ出すことになってしまったのは申し訳ないし、それが生理痛だということもなんだか恥ずかしいけど。
それもこれも瀬川さんが大げさに体調不良だなんて言うから。
私は別に最後まで居られたのに。
違う……。
瀬川さんは悪くない。
ただ心配してくれただけ。
なんか私、いちいち瀬川さんのせいにして嫌なやつだ。
いつまでも過去のことを引きずってこじらせているのは私のほう。
瀬川さんは普通に接してくれようとしているのに。
いや、ただの同僚ってだけなら家まで来たりしないか?
わからない。彼が何を考えているのかも、今の距離感も。
それでもやっぱり四年前のことに納得がいかないのは変わらない。
私は本当に、瀬川さんに体で媚びを売って仕事をもらっていたのだろうか。
時々、そんなことを思う。
体の関係はあったのだから、瀬川さんがそうだと言えばそういうことになる。
意図せずとも噂は本当だったということだ。
彼の本心を聞かないまま避けてしまっているのは私。
それはきっと答えを知るのが怖いから。
噂は間違ってないと言われたら、私はもう何を信じればいいかわからなくなる。
ただ、私のことを好きじゃなかったとういことは確かだ。
好きでいてくれていたなら、付き合っていないとしても、噂は否定してくれたはずだから。
『兼森さんが仕事に真剣向き合ってること知ってます。公私混同なんてしないことわかってます』
氷山くんに、会いたい……。
さっきまでこの部屋にいたのに、もうそんなことを思ってしまう。
彼といると落ち着いて、自分が肯定されたような気になる。
完璧じゃない彼が、一生懸命変わろうとしている姿に、そばにいたいと思う。
というかこれって……私、氷山のこと、好き、なのかな。
はっきりと気持ちを言葉にすると、なんだかむずがゆい。
でも、これはきっとそういうことだ。
私、氷山くんのこと好きなんだ。
もっと知りたいと思うのも、そばにいたいと思うのも、今の関係を壊したくないと思うのも、全部彼が好きだから。
氷山くんは、私のことをどう思っているのだろう。
嫌われていないことはたしかだけれど、それ以上の感情はあるのだろうか。
キス、されたし期待してもいいのかな。
でも、そそられたっていうのは好きだからってわけではないことは身にしみてわかっている。
必ずしも心と身体が一緒というわけではないのだ。
好きに、なってもらいたい。
それって、どうすればいいんだろう。
大人になってからの恋って難しい……。
◇ ◇ ◇
自分の気持ちをはっきりと自覚したところで何も変わらないのに、どうしてか氷山くんを見ると緊張するようになっていた。
バレないように平静を装い、いつも通り接するのが大変だ。
いや、別にバレてもいいのか?
でも彼の気持ちがはっきりわからないまま気持ちを打ち明けるのは勇気がいる。
それでもやっぱり会社で彼を見かけるとそれだけで嬉しかった。
資料室へ行った帰りエレベーターに乗っていると、途中の階から氷山くんが乗ってきた。
そしてもう一人、見慣れない女性。
社内の人間ではない。来客だろうか。
私は軽く頭を下げてそのまま乗っていると、女性が私をじっと見て口を開いた。
「あのー、総務部の、兼森さん?」
「え? はい……」
なんで知っているんだ、と思ったけれど彼女の視線は首から下げた社員証にあった。
「私たち今から打ち合わせするんだけど、お茶、お願いできるかしら?」
「へ……」
突然のことでびっくりして変な返事をしてしまった。
氷山くんも驚いたのか、急いで割って入ってくる。
「あ、桜田さん! お茶は俺が淹れるんで」
桜田さん?
もしかして桜田ホールディングスのご令嬢なのかな?
社長のお孫さんがとても優秀だと聞いたことがある。
氷山くんが契約を取ってきたし、可能性は高い。
まあ、誰であろうと来客には変わりない。
「かしこまりました。氷山くん、どこの会議室使うの?」
「えっと……第二会議室です」
「このあとすぐに準備して伺います」
「すみません、ありがとうございます」
そしてエレベーターが到着して、私はそのまま給湯室へと向かった。
二人分のお茶を用意し、第二会議室へと運ぶ。
お茶くみは部長から時々頼まれるので慣れている。
それにしてもさっきの女性、綺麗だった。
なんか私を見ながらずっとニコニコしていたし、いきなりお茶をお願いだなんて大物の気配もする。
会議室に着き、三回ドアをノックする。
「はい」という返事を確認して中へと入った。
桜田さん、氷山くんの前にお茶を置き、頭を下げて部屋を出ようとすると「ちょっと」と引き止められた。
「兼森さん、時間ある? あなたも一緒にどうかしら」
「え? 一緒にというのは……」
「ね、いいでしょ。樹くん」
樹くん?!
氷山くんのことを名前で呼んでるの?
「ですが兼森さんも仕事がありますし」
「今忙しい? そんなに長くはならないのだけど」
「特に急ぎの仕事はありませんが……」
「じゃあいいでしょ? 座って?」
よくわからないけど、仕事相手には変わらないだろうし失礼になってもいけないと思い、私も椅子に座った。
隣には氷山くん、向かいには彼を名前で呼ぶ桜田さんという女性。
いったいどういう状況なんだ。
戸惑っていると、彼女が微笑みながら口を開いた。
「桜田ホールディングス経営戦略部主任の桜田絵里花です」
「テンダー製紙総務部の兼森すみれです……」
「よろしくね。樹くんは大学の後輩なの」
そうだったんだ。
ということは、確実に私より年下……貫禄と余裕が違いすぎる。
そして桜田ホールディングス社長の孫娘。
「よろしくお願いします。あの、なぜ私も同席を?」
「今日は打ち合わせっていうより挨拶がてらの談笑がメインだから楽しくお話したいと思って」
楽しく、お話?
それならなおさら私なんていない方がいいのではないか?
隣の氷山くんは気まずそうに私を見るけれど、取引先相手でかつ先輩となると強くは出られないんだろう。
桜田さんはずっとニコニコしているし、場に流されて奇妙な座談会が始まってしまった。



