「え……今のって……私、死んで……転生した!?」
前世を思い出し、五歳の私は混乱した。
その時、とある光景を白昼夢のように視た。前世でも経験した、あの白昼夢だ。
どうしてかわからない。前世では家系的なものかと思ったけれど、今世へと能力を引き継いだらしい。
どこかの部屋に飾られている、いくつかの絵画。その絵画は明らかに、父親とその家族を描いたものだった。
キッと父親を睨んでから、私は外へダッシュ。前世のテレビで見た、腕をフルスイングする素晴らしい走行スタイルだったと思う。
「な、なんだ!? 速い!?」
スピードは、驚く父親のお墨付きだ。
勢いよく外へ飛び出した私は、叫んだ。
「知らない人が、お母さんにひどいことしてるの! お母さんが美人だからって! 奥さんがいるくせに! 誰か助けて! お母さんが、お母さんがぁ!」
と悲壮感を出しつつ、あらぬ妄想をかき立てる言葉をチョイス。
ちなみに貴族と違い、平民の間で浮気はご法度。思っていた通り、美人な母に好意的な男性たちが率先して、我先にと家に駆けつけてくれた。
その後、女性陣も加わり、父親は非難囂々の嵐に見舞われた。
いくら相手が平民とはいえ、数に物を言わせた人海戦術だ。耐えかねた父親は、ぶつぶつ文句を言いながら去っていった。
その後、転んだ時に手を骨折していた母と共に、医者のもとへ行った。
けれど、このエイゾナ国の医者は職業柄か男尊女卑思想が強く、貴族の思想に近い。その上、父親が裏から手を回し、治療費を吹っかけるよう指示していた。
むかついた私は、前世の記憶から得た登山の救急措置知識で、適切に処置。
「うちの娘、天才よ!」
なんて母から褒めちぎられた。前世の子供の頃、滅多に褒められず、裏切られた最期の記憶が蘇ったばかりの私は、そんな母の姿が愛しいのに、どうしてか涙がこぼれそうになった。
けれど七歳の時、母が亡くなった。山で山菜採り中の、転落死。
母の体は、擦り傷でぼろぼろ。なのに、顔だけは無傷。間違いなく、母は自分の顔をしっかり守って死んだ。
前世と今世を合わせ、初めて親の愛情を与えてくれた人の死。もちろん悲しいし、寂しくて仕方なかった。
けれど母らしい最期に、これはこれでよかったかと、少々複雑な気持ちもあった。
四十代で死んだ前世と今世の人格が完全に融合し、精神年齢が上がったせいかもしれない。
そして母の死を境に、私の生活はガラリと変わり、悲しんでばかりもいられなかった。
「お前の顔には、利用価値がある。それなりの贅沢をさせてやる」
葬儀を終えた私にそう言ったのは、父親。まだ七歳の平民女児には、自分の言葉を理解できないと思っての、不適切発言に違いない。
もしくは〝女〟だからと甘く見たか。
要は将来、政略結婚ないし、自分の利益をもたらす駒にできると、父親は目論んだのだと理解した。
とはいえ、このまま孤児になったとしても、行き着く先は孤児院。
自分で言うのもなんだけれど、この頃の私は天使と称されるほど、母親譲りの美幼女。高確率で身の危険が伴う。
生きるためには仕方ないと判断し、父親と共に、邸へと向かった。
邸はかなり大きく、父親の爵位を聞いて納得。代々続く伯爵家だった。
邸について、早速メイドに邸内を案内してもらっていた時だ。
「こんなに地味でおもしろみのない女が、僕の母親だとはな。それも生意気女の多い、ビーフェスカ国出身だ。間違っても社交界に出て、僕に恥をかかせるなよ」
ガーデンチェアに腰かけた母親らしき女性に、十歳くらいの少年が食ってかかっていた。
父親と初体面した時に白昼夢で視た、家族の肖像画を思い出す。
おそらく異母兄と父親の本妻だ。ふたり共、髪は黒。異母兄は父親と同じ青い瞳で、義母は深い緑の瞳をしている。
後に異母兄の名前はドリスタン、本妻はリリスと知る。
それにしても、ドリスタンの暴言がひどいわ。リリスと血が繋がっていないのかしら?
そう思い、近くのメイドに確認した。普通に血が繋がっていた。
強烈に母親不孝を地で行く、恥知らずな息子。それがドリスタンの第一印象だった。
罵倒されるリリスは、淡々とした様子で聞き流していた。怒りも注意も、表情を変えることすらもしない。
罵倒されるのに慣れている。それがリリスの第一印象。
エイゾナ国の貴族社会における女性は、家のための駒であり、子供を生む道具。馬鹿で愛嬌があるのをよしとし、男性の一歩後ろを歩き、出しゃばらない女性を妻にすることが、男のステータスとされている。
なんのカルチャーショック!? ここは明治か大正時代か!?
と内心、ツッコミを入れたのは秘密だ。
そして翌日、ドリスタンの印象は、表向きは初顔合わせとなる場で、最悪になる。
「父上が外で作った子供か。父上が引き取ってやったんだ。感謝しろよ。確かに将来、我が家の駒にできそうな顔のよさだ。母親譲りだったか? 母親は傾国の美女と言われていたそうだが、中身は父上の情けに縋る、意地汚い女だったんだろう。まさに傾国の悪女だな」
私の顔を褒めたのはともかく人様の母親を貶すなんて、え、馬鹿なの? そうか、馬鹿なのね。馬鹿は相手にしても、生産性がないわ。
前世の経験からそう判断した私は、早々にドリスタンに見切りをつけた。
以降、私はドリスタンが絡んできても、微笑みながら完全に無視した。
前世を思い出し、五歳の私は混乱した。
その時、とある光景を白昼夢のように視た。前世でも経験した、あの白昼夢だ。
どうしてかわからない。前世では家系的なものかと思ったけれど、今世へと能力を引き継いだらしい。
どこかの部屋に飾られている、いくつかの絵画。その絵画は明らかに、父親とその家族を描いたものだった。
キッと父親を睨んでから、私は外へダッシュ。前世のテレビで見た、腕をフルスイングする素晴らしい走行スタイルだったと思う。
「な、なんだ!? 速い!?」
スピードは、驚く父親のお墨付きだ。
勢いよく外へ飛び出した私は、叫んだ。
「知らない人が、お母さんにひどいことしてるの! お母さんが美人だからって! 奥さんがいるくせに! 誰か助けて! お母さんが、お母さんがぁ!」
と悲壮感を出しつつ、あらぬ妄想をかき立てる言葉をチョイス。
ちなみに貴族と違い、平民の間で浮気はご法度。思っていた通り、美人な母に好意的な男性たちが率先して、我先にと家に駆けつけてくれた。
その後、女性陣も加わり、父親は非難囂々の嵐に見舞われた。
いくら相手が平民とはいえ、数に物を言わせた人海戦術だ。耐えかねた父親は、ぶつぶつ文句を言いながら去っていった。
その後、転んだ時に手を骨折していた母と共に、医者のもとへ行った。
けれど、このエイゾナ国の医者は職業柄か男尊女卑思想が強く、貴族の思想に近い。その上、父親が裏から手を回し、治療費を吹っかけるよう指示していた。
むかついた私は、前世の記憶から得た登山の救急措置知識で、適切に処置。
「うちの娘、天才よ!」
なんて母から褒めちぎられた。前世の子供の頃、滅多に褒められず、裏切られた最期の記憶が蘇ったばかりの私は、そんな母の姿が愛しいのに、どうしてか涙がこぼれそうになった。
けれど七歳の時、母が亡くなった。山で山菜採り中の、転落死。
母の体は、擦り傷でぼろぼろ。なのに、顔だけは無傷。間違いなく、母は自分の顔をしっかり守って死んだ。
前世と今世を合わせ、初めて親の愛情を与えてくれた人の死。もちろん悲しいし、寂しくて仕方なかった。
けれど母らしい最期に、これはこれでよかったかと、少々複雑な気持ちもあった。
四十代で死んだ前世と今世の人格が完全に融合し、精神年齢が上がったせいかもしれない。
そして母の死を境に、私の生活はガラリと変わり、悲しんでばかりもいられなかった。
「お前の顔には、利用価値がある。それなりの贅沢をさせてやる」
葬儀を終えた私にそう言ったのは、父親。まだ七歳の平民女児には、自分の言葉を理解できないと思っての、不適切発言に違いない。
もしくは〝女〟だからと甘く見たか。
要は将来、政略結婚ないし、自分の利益をもたらす駒にできると、父親は目論んだのだと理解した。
とはいえ、このまま孤児になったとしても、行き着く先は孤児院。
自分で言うのもなんだけれど、この頃の私は天使と称されるほど、母親譲りの美幼女。高確率で身の危険が伴う。
生きるためには仕方ないと判断し、父親と共に、邸へと向かった。
邸はかなり大きく、父親の爵位を聞いて納得。代々続く伯爵家だった。
邸について、早速メイドに邸内を案内してもらっていた時だ。
「こんなに地味でおもしろみのない女が、僕の母親だとはな。それも生意気女の多い、ビーフェスカ国出身だ。間違っても社交界に出て、僕に恥をかかせるなよ」
ガーデンチェアに腰かけた母親らしき女性に、十歳くらいの少年が食ってかかっていた。
父親と初体面した時に白昼夢で視た、家族の肖像画を思い出す。
おそらく異母兄と父親の本妻だ。ふたり共、髪は黒。異母兄は父親と同じ青い瞳で、義母は深い緑の瞳をしている。
後に異母兄の名前はドリスタン、本妻はリリスと知る。
それにしても、ドリスタンの暴言がひどいわ。リリスと血が繋がっていないのかしら?
そう思い、近くのメイドに確認した。普通に血が繋がっていた。
強烈に母親不孝を地で行く、恥知らずな息子。それがドリスタンの第一印象だった。
罵倒されるリリスは、淡々とした様子で聞き流していた。怒りも注意も、表情を変えることすらもしない。
罵倒されるのに慣れている。それがリリスの第一印象。
エイゾナ国の貴族社会における女性は、家のための駒であり、子供を生む道具。馬鹿で愛嬌があるのをよしとし、男性の一歩後ろを歩き、出しゃばらない女性を妻にすることが、男のステータスとされている。
なんのカルチャーショック!? ここは明治か大正時代か!?
と内心、ツッコミを入れたのは秘密だ。
そして翌日、ドリスタンの印象は、表向きは初顔合わせとなる場で、最悪になる。
「父上が外で作った子供か。父上が引き取ってやったんだ。感謝しろよ。確かに将来、我が家の駒にできそうな顔のよさだ。母親譲りだったか? 母親は傾国の美女と言われていたそうだが、中身は父上の情けに縋る、意地汚い女だったんだろう。まさに傾国の悪女だな」
私の顔を褒めたのはともかく人様の母親を貶すなんて、え、馬鹿なの? そうか、馬鹿なのね。馬鹿は相手にしても、生産性がないわ。
前世の経験からそう判断した私は、早々にドリスタンに見切りをつけた。
以降、私はドリスタンが絡んできても、微笑みながら完全に無視した。


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