「……泣いて…るの?」
無言のまますれ違ってこようとしたから、わたしも同じようにするだけ。
そう意気込んでいたはずが、無意識のような声をかけてしまった。
だって本当に、そう見えてしまったから。
「……そんなのとっくに枯れたけど」
わたしだって動揺する。
てっきりまったく関係ない話で避けられるか、興味も示さないスルーを決め込まれるかとばかり思っていたから。
ピンクベージュは月に射されると白銀のようになるんだ。
「じゃあ…泣いたの?」
いつ、泣いたの。
今日だったとしても、今日じゃなかったとしても、あなたは泣いた。
きっと誰よりもいちばん涙を流して育ったんだろうなって……おかしいかな、こんなことを思ってしまったわたしは。
「…んなの忘れたよ」
どうしたって合わない目。
シンプルなキュプラ生地のモノトーン柄シャツと、黒のタックワイドパンツ。
紳士靴がカツンカツンと静寂を広げるように音を立てながら、彼は階段を登ってゆく。
「……枯れてない“ハナ”は…、まだあるんじゃないの…」



