「…お気をつけて行ってらっしゃいませ。識様」
アニキじゃなくて。
照れ隠しを誤魔化したようなそんなノリ重視の呼び方なんかじゃなくて。
本当はこんなふうに呼んでみたいって言ったら、笑う……?
2歳年上の男性の背中を、メイドならではのお辞儀作法で静かに見送った。
『久しぶりね、サナ。お母さんはあなたを本当に見直したわ』
という1本の電話がかかってきたのは、屋敷内がメイドのみとなる平日昼過ぎ。
こんなふうに母から電話がかかってくるなんて初めてで、ここまで分かりやすく褒められたのも初めて。
「久しぶりお母さんっ!じいちゃんも元気にしてる?あのねっ、日向家は───」
『ええ。話はこっちで聞くわ』
「えっ、こっち、って…」
『また取れそうな日にでも日向様に1日休暇を頂いて、うちに顔を出しに来なさい。あなたの好きなものを用意して待ってるわ』
「ほ、ほんと…!?わかったっ、また連絡する!!」



