“あの男”とは、彼の父親のことだろう。
わたしは今まで13回もメイドをクビになっている人間だから、金を持った人間の汚さもたくさん見てきた。
金があるが故、すべてが手に入ると思っている人間たちを。
女を道具として扱い、自分は他の場所に娯楽や快楽を求め、家で待ち続ける妻を泣かせている男たちを。
待ち続ける側のストレスなど考えもしないで。
そして彼らの父親であるこの家の主(あるじ)もまた、同じ卑劣さを持っていたことなんて。
「はい」
「…………」
「おーいでっ」
眠気のなか、両手をそっと広げる。
「意味わかんない」と、微かな微かな声が聞こえた。
「いいからここに来るの。ほらっ」
「っ…!」
見下ろしていた腕を引っぱって、16歳の男の子の身体を受け止める。
反動で背中から倒れそうになると、なぜか違う手が支えてくれた。
紛れもなく、目の前の存在の手だ。



