「よけてぇぇぇぇ……っ」
御曹司のひとりに大怪我なんかさせたら、大変どころの騒ぎじゃない。
こんなわたしでも今まで仕えたご主人様に怪我を負わせたことはなかった。
大体がいろいろやらかしていたけれど、怪我ではなくどれも失態という形。
ドスン────っっ。
「……ハッ!!ふ、楓くん!!」
「あーーもう……心臓やば…」
「ケガっ!心臓…!?どこが折れた…!?」
「…折れてない。背中がちょい痛いくらい」
「せっ、背骨ぇぇ…っ」
「だから折れてはないって」
まさかの受け止めてくれちゃった……。
仰向けになった制服姿の三男坊の上、とっさに身体を起き上がらせる。
すぐに湿布だ、すぐに救急車だ、すぐに応急処置だと頭をぐるぐる働かせていると、ペシッと軽いデコピンを食らったオチ。
「いてっっ」
「サナにケガは?」
「えっ、いまのデコピンが…!」
「ならオッケー。んじゃあ、とりあえず助けてあげたお詫びにおれを構って」
「なっ、なんなりと!!なんなりとお申し付けちゃって…!!」
わたしの必死感に耐えられなくなったのか、最初に降参を掲げたのは楓くんだった。
ふにゃりと眉を下げると、ちょうど空いていた窓から吹いた風が彼の髪をサラサラと揺らす。
ほんのり優しさが感じられる栗色は、たぶん地毛じゃないかと思う。



