シトラスの魔法が解けるまで

体験場所に到着し、グループ分けが発表された。
残念ながら瀬戸とは別のグループ。でも、心のどこかで「よかった」と安心している自分がいる。
だって、あんな寝顔を見た後で隣に並んだら、きっと藍染めどころじゃなくなっちゃうから。
​「藤井! やらねーの?」
真柴くんの声に、私は我に返った。
配布されたハンカチを、輪ゴム(ようじょうベルト)で二箇所縛っていく。
「深く考えるな」と言われたけれど、どうせ柄なんて染めてみないとわからないのに、どうしても手が止まってしまう。
​「……できた」
不器用なりに結んだ二つの結び目。
お世辞にも綺麗とは言えないけれど、今の私の精一杯の気持ちが詰まっている気がした。
ふと顔を上げると、少し離れたところで作業を終えた瀬戸くんが、私の方を見ていた。
​「……藤井? 行くぞ」
真柴くんの​呼び声が、藍染めの工房に響く。
これからこのハンカチがどんな色に染まるのか。
期待と不安が混ざり合って、私の胸は指宿の空よりも青く澄み渡っていた。