シトラスの魔法が解けるまで

​言い返したかった。
「嫌ってないって言ってくれたよ」って。「助けてくれたよ」って。
でも、喉の奥が熱くなって、言葉が出てこない。
結愛ちゃんから漂う、甘ったるい綿菓子の香水が、私のシトラスを塗りつぶしていく。
​(……負けたくない。でも、どうすればいいの?)
​集合場所のロビーに向かうエレベーターの中で、私はスマホを握りしめた。
昨日のフェリーでの距離、そして今朝の彼女の言葉。
修学旅行2日目。
今日は知覧や指宿への移動がある。
このまま「どんより」したまま終わらせたくない。
​『鏡の中のライバルは、私の弱さを見透かしたように笑っていた。
シトラスの香りは、まだ私の味方をしてくれるだろうか。
重い足取りで踏み出した2日目の朝。私は、逃げ出すための理由ではなく、彼に会うための勇気を必死に探していた。』