シトラスの魔法が解けるまで

数秒の沈黙。
抵抗していた彼の腕から、ふっと力が抜けた。
「……ったく。……お前、バカだろ」
小さな、呆れたような溜息。
でも、その声は昨日よりもずっと近くて、少しだけ、優しさが混ざっている気がした。
​ゆっくりと、彼が私の方を振り返る。
逃げるのをやめて、真っ直ぐに私を見下ろす瞳。
近すぎて、心臓の音が彼に聞こえてしまいそう。
​「……チャイム、鳴るぞ」
「……知ってる。でも、離さないから」
「……わかったよ。放課後な。……今度は、ちゃんと行くから」
​その言葉を聞いた瞬間、目の奥が熱くなった。
掴んでいたウインドブレーカーを、ゆっくりと離す。
指先にはまだ、青の感触と、彼の熱が残っていた。