シトラスの魔法が解けるまで

「でもさ、莉奈」
冴が不意に、窓の外を見ながら言った。
「会えない時間があるから、会えた時が特別になるんでしょ。それ、莉奈が小説に書いてたやつじゃん」
​……そうだ。
私が『野いちご』に書いた言葉を、冴はちゃんと覚えてくれていた。
​「……うん。そうだよね」
私は窓ガラスに映る、自分の冴えない顔を見つめる。
昨日、番長に「怒ってない」と言われた時のあの衝撃。
それを、ただの「拍子抜け」で終わらせたくない。
​この2日間で、私はもっと、物語を前に進めよう。
次に2組の扉が開いた時、私は昨日までの私とは違うって、胸を張って言えるように。
​『シトラスの香りが消えた廊下で、私は静かに牙を研ぐ。……なんて、そんな物騒なことじゃないけれど。次に会うための「準備」は、もう始まっているんだ』