シトラスの魔法が解けるまで

「……ねぇ、冴。神様って、絶対私のこと嫌いだと思わない?」
購買で買ったパンを、私は恨めしそうに眺めた。
「あはは! まさかの学級閉鎖ね。莉奈、今日に限って気合入ってたのに」
冴は楽しそうに笑いながら、パックの飲み物をストローで吸う。
​二人の視線の先には、ドアが閉められた2組の教室がある。
いつもなら男子たちの騒がしい声や、あのシトラスの香りがかすかに漂ってくるはずの場所が、今はただ、死んだように静まり返っていた。
​「あーあ。私、今日こそは目を逸らさないって決めてたのにな」
「いいじゃん、2日間の執行猶予。その間に、もっと完璧な『おはよう』の練習しなよ」
冴は相変わらずサバサバしている。彼女のこういう、湿っぽくないところが今はありがたい。