シトラスの魔法が解けるまで

​会話はいつの間にか、修学旅行の思い出へと戻っていた。
「中指の青がとれない」
「あいぞめ」
あの日、指宿で一緒に体験した時間は、ちゃんと彼の中にも残っていた。
「どんまい」なんて言いながら、彼はあの時の私を思い出してくれているんだろうか。
​「せっかく捕まえたのに?」
「私が君を捕まえました」
「にげるわ」
​冗談めかしたやり取り。
画面越しに、彼が少しだけ笑っている顔が浮かぶ。
一ヶ月後に訪れる「終わり」なんて、この時の私には一ミリも見えていなかった。
ただ、シトラスの香りがしないこの部屋で、光る画面の中の彼と繋がっている。
その事実だけで、私の世界は藍色から鮮やかな春の色へと塗り替えられていった。
​『「にげるわ」なんて言わせない。
15分かけて紡いだ言葉は、確実に彼の元へ届いた。
PV520。
読者のみんな、見てて。
これが私の、本気の第一歩。
逃げる彼を追いかけて、私はもっと広い空へと飛び出していくんだ。』