シトラスの魔法が解けるまで

けれど、帰り道のバスは、神様のちょっとした意地悪だった。
行きとは座席の配置が変わり、瀬戸くんが窓側、真柴くんが通路側に座ってしまったのだ。
私の席からは、真柴くんの大きな背中が壁になって、瀬戸くんの姿が全く見えない。
​(……せっかく同じバスなのに)
​私は真柴くんに向かって「どいて!!」と必死にジェスチャーを送った。
でも、彼はそれを見てニヤッと笑っただけで、わざと背筋を伸ばして視界をふさいでくる。
「むぅ……!」
​窓の外、夕暮れに染まる鹿児島の景色。
そのどこかにいるはずの、大好きなシトラスの横顔。
見えないからこそ、余計にその存在を強く感じてしまう。
修学旅行2日目の夜は、少しの寂しさと、たくさんの「ありがとう」に包まれて更けていった。
​『見えない距離が、もどかしくて、愛おしい。
シトラスの香りは、バスの揺れに合わせて、私の胸の奥で静かに、深く、藍色に染まっていく。
明日、最終日。私は彼に、いつになったら話しかけれるのだろうか。』