人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 ジニーが執務室を去ったあと、俺――モルドレッド・ドレイクは補佐官を呼び、今日の予定を確認した。


「……今日は昼食を兄上と摂ろうかな」

「さようでございますか。何か、お約束でもされていらしたのですか?」

「してない。兄上に確認を……いや、俺も行く。訪問先の貴族には兄上と親しい者もいるから、俺が顔を出すことを先に伝えてもらおう」


 さきほどジニーと見ていた書類の中から、訪問先の領地を統治している貴族一覧を取り出した。

 そして余白へ、家系ごとの派閥を書き込んでいく。

 派閥と言っても、露骨に敵対しているわけじゃない。ただ、それでも自然と付き合いの深い家同士というものはある。

 父王と近しい家系。兄上を推す家。そして俺の後ろ盾になってくれている人々。ほかにも宰相派や辺境伯一派なんかがあるけど、今は置いておく。今回気にするべきはそこじゃない。

***

 ――先程、ジニーが気にしていた香り。

 あれは、妖精の香なのではないか――そんな疑念が頭から離れなかった。


 ブリテニアに住まう人間は、生まれたときに妖精から一人につき一つの能力を贈られる。

 父王は『調和』、俺は『抑制』、ジニーは『鼓舞』、そして兄上は……『扇動』。

 授けられる能力は、その人物が将来強く求める力なのだと伝承されている。

 だから統治者である父王が、人々との調和を成す『調和』を持つことも、辺境伯の娘として有事には兵たちを力づけるジニーへ『鼓舞』が与えられたことも、不思議ではない。


 兄の『扇動』は使い方が難しいと、兄上の家庭教師が言っていた。


「その気になれば国を乗っ取ることも、戦争を起こすこともできます。ですが、単純に政治的駆け引きの場で、周囲の意見を自分に都合よく誘導することも可能です。王族の方が持つ能力としては、使い勝手が良いのかもしれませんね」


 それを聞いたとき、幼かった俺は少し背筋が冷えた。

 俺の『抑制』とは、まるで正反対の力だったからだろう。


 能力を使うには、妖精の力を借りる必要がある。そして、妖精が力を使うと匂いがする。

 ただ、自分に力を貸す妖精は生まれたときからずっと同じだ。だから匂いもすっかり慣れてしまっているし、そもそも妖精は家系ごとに種類が異なる。

 つまり、父上にも兄上にも同じ系統の妖精が力を貸している。だから二人が能力を使っても、俺にはその匂いがわからない。

***