人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 私はほんの少しだけ歩調を緩め、殿下の隣へ寄った。


「殿下」

「ん?」

「緊張していらっしゃいます?」


 殿下は一瞬目を丸くしてから、困ったように苦笑した。


「分かる?」

「分かります」

「そんなに顔に出てる?」

「いえ」


 私は肩を揺らして小さく笑った。


「殿下は警戒なさるとき、左手で剣の鞘を引く癖があります」


 殿下は思わず自分の手を見た。


「……ほんとだ」

「訓練を見ておりましたから」

「参ったな」


 殿下は苦笑混じりに小さく息を吐いた。

 そして殿下は、ほんの一瞬だけ足を止めた。

 秋の朝の淡い光が、殿下の足元を静かに照らしている。


「ジニー」

「はい」

「もしさ」


 殿下は言いかけて、照れたように少し笑った。


「いや、やっぱりやめた」

「言ってくださいな」

「こういうのって、だいたい縁起悪いだろ」

「フラグ、ですわね」


 思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまった。

 決戦の直前だというのに、妙に可笑しくてたまらなかった。

 殿下は小さく首を振った。


「でもまあ、これだけは言っておく」

「なんですの?」

「隣に君がいてよかった」


 ほんの一瞬、胸の奥が熱くなって言葉が出なかった。


「……光栄ですわ」

「いや、本当に」


 殿下は前を向いたまま、静かな声で続けた。


「一人だったら、ここまで来られなかった」


 私はそっと一歩だけ歩み寄り、殿下と肩を並べた。


「殿下」

「うん」

「まだ、ここへ来ただけですわ」

「そうだった」

「これから兄君をぶちのめさなくてはいけませんもの」


 殿下は吹き出した。


「君、本当に容赦ないな」

「私の娘だからな!」


 後ろから父が声を上げた。

 驚いて振り向くと、父だけでなくアグラヴェイン卿や他の貴族方まで、楽しげな笑みを浮かべて私たちを見ていた。


「そうでした」


 殿下は苦笑しながら、再び歩き出した。

 私もその隣に並ぶ。


 前方には、玉座の間へ続く重厚な大扉が静かにそびえていた。