人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 アグラヴェイン邸で休ませていただいた翌日、ついに王都に到着した。

 街へ入る大門の前で、私たちはやんわりと門番に呼び止められた。すると父が、面白そうに唇の端をつり上げた。


「ほう、なにか王都に入れていただけない、正式な礼状でもあるのかね?」

「……それは」


 門番たちは言葉に詰まった。

 後続の貴族らも馬車から降りてきた。


「社交シーズンだぞ?」

「王家主催の社交パーティの招待状もある」

「去年も一昨年も、同じ時期にもっと多くの貴族が王都に集ったではないか」


 門番たちはあからさまにたじろぎ、互いに顔を見合わせた。

 なにしろ、東部一帯を治める貴族たちが、ほとんど一斉に押し寄せているのだ。

 武装らしい武装をしているのは私くらいで、貴族令嬢が一人剣を帯びている程度では、これだけの人数を締め出す理由としては弱すぎる。


「むろん」


 父がいきり立つ貴族たちを手で制し、穏やかに微笑んだ。

 門番たちは、縋るような目で父を見上げた。


「勅命があれば引き下がるよ。我々が王都に入ってはいけない、正当な理由を提示してくれたまえ」


 門番たちが再び顔を見合わせた。


 やがて門番たちは観念したように一歩下がり、手を上へ振った。

 ギイギイと鈍い音を響かせながら、巨大な門がゆっくり開いていく。

 貴族たちは素早く馬車へ戻り、我が家の馬車に続いて次々と門をくぐっていった。

***

「ともかく、君たちは無事に戻ってきたわけだ」


 ヴォーティガン伯爵家が王都に構えるタウンハウスで、私たちはようやく一息ついていた。

 モルドレッド殿下がソファで背筋を伸ばし、父に頭を下げた。


「ヴォーティガン卿のおかげです」

「もちろんそうだ。しかし、君たちには熱意があった。『何が何でもやらねばならぬ』という決意がね。年寄りというのは、そういうものに弱いのさ」


 父はばちんとウィンクを飛ばした。

 殿下がやけに嬉しそうに笑う。

 私は侍女が淹れてくれた温かいお茶を、静かに口へ運んだ。


 窓の外では、王都の空へゆっくりと夕闇が迫っていた。